断捨離という言葉を初めて耳にしてから10年以上経過しましたが、自分にはあまり関係ない、どこか遠い世界のことのように聞き流していました。しかし、子どもが小学生になると、こども園で使用していたお昼寝布団や小さい頃のおもちゃなど、必要が無くなったものがよく目に付くようになったこともあり、少しは家の中を片付けなくてはという気持ちが芽生えるようになってきました。
そのまま体を動かせば良いはずなのですが、まずはネットで情報を集めようと検索してみますと、"ミニマリスト"なる方々が特集されていることに気が付きました。今まで、全く片付けに興味も無かったので、そのような方々が存在するのも知らずに過ごしておりました。
ミニマリストとは、持ち物をできるだけ減らし、必要最小限の物だけで暮らす人のことで、自分にとって本当に必要な物だけを持つことでかえって豊かに生きられるという考え方をされています。断捨離はただ不必要なものを捨てる行為だけなのに対し、ミニマリストは少ない物で豊かに暮らすという考えを基に生活している人達のことを指します。何を持ち、何を持たないかの基準は人それぞれですが、少ない服を制服のように着回したり、一つの物をさまざまな用途に使ったり、誰かと共有したりすることで、自分が所有する物を厳選し大切に扱っている点が皆さんに共通しているようです。
ミニマリストの方々のブログなどを拝見すると、驚くほど物が無い自宅の写真がずらりと並んでおり、初め見た時はかなりの衝撃を受けました。ベッドは無いのは当たり前で、机も椅子も無い方もいらっしゃり、どうやって日常の生活を送られているのであろうと不思議になるほどでした。
更に、さすがにお子さんがいる世帯では無理なのではないかと思ってもいましたが(そうあって欲しいと願っていた、というのが本心かも知れません)、検索するとお子さんが複数いらしてもキチンとミニマリストとして生活されているようで、更なる衝撃を受けました。毎日、何かを探して家中を歩き回っている私としましては、どのお宅の写真もキラキラと輝いて見え、何よりそのスタイルがうらやましく、探し物をしなくていい日がやってくるかも知れないと希望が溢れる未来を夢見て勝手に幸せな気分になっていました。
そこで、気分だけで終わってしまってはいけない!と、まずは手始めにクローゼットの不必要な衣類を処分することから始めました。皆さんのブログなどに書いてあるように、自分以外の家族の持ち物は勝手に捨てると非難の嵐にさらされるということでしたので、まずは自分の物を捨てることから始めたのですが、持っていることすら忘れていた物があまりに多いことに驚きました。持っていることを忘れている物は必要な時に取り出すことができないため、「存在を忘れている物は持っていないことと同義」と自分自身考えていたのにもかかわらず、「いつか必要になる日が来るかも知れない」と、こんなにもたくさん溜め込んでいたのかと現実を突きつけられました。
初めは、処分するかどうか迷うことも多くありましたが、作業が進むにつれ捨てること自体が少し快感になり、どんどんごみ袋が増えていきました。更に、ブログなどでは、「リサイクルショップへの持ち込みやフリマアプリへの出品は、時間や労力が掛かり、いつかやろうと思って結局は手放せなくなるので、思い切って処分した方が良い」とありましたが、さすがにもったいないと思う物は、フリマアプリへ初出品することにしてみました。すると、案外すぐに売れるものもあり、初めてのチャレンジを楽しむこともできました。
その後、数週間を掛けて洗面台の下や食品庫、食器類などにも取り掛かり、かなりの数のごみ袋を廃棄することになりました。
自分の中では、かなりのごみ袋の数であったため、気分も良く、爽快感に溢れ、さぞかし家の中の見栄えも良くなったに違いないと家の中を見渡してみると、今までとほぼ変わりない、いや、むしろその間に子どもの新しいおもちゃが増えていて、更に物が溢れかえっている風景が広がっており愕然(がくぜん)としてしまいました。よく考えてみると、私が片付けたのはクローゼットの中、洗面台の棚、食品庫や食器棚の中など、普段見えない所ばかりだったのです。片付けた労力に対し、見える効果が全く無かったためやる気が急激にしぼんでしまい、その後そのままの状態を維持してしまっています。
ミニマリストの方々の、自分にとって本当に大事な物を見極めて、必要な物だけを取り込むことで楽に生きたいという考えには共感し、目指したいと強く決意したのですが、実際、自宅の中の見た目は何も変わらずのまま、自分の中の断捨離ブーム、ミニマリストを目指す計画はあっけなく終了してしまいました。
家の中の不用品達、果たしていつ来るか分かりませんが、きっともう一度、私にミニマリストになりたいブームが来るはずですので、それまで覚悟して待っていて下さい。
(一部省略)
福井県 福井県医師会だより 第735号より