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令和5年(2023年)2月5日(日) / 南から北から / 日医ニュース

あっという間の30年

 12月22日は妻の誕生日で、平成の御代には翌日が天皇誕生日のため、友人達を交えて誕生祝いをしていました。令和になり、23日が平日となったことと、新型コロナウイルス感染の恐れのために、私と二人で祝うことになってしまいました。
 令和3年は、平成3(1991)年に結婚したので、私達夫婦はちょうど真珠婚に当たります。私のワインコレクションの中から、1991年のワインを探し、いつものフランスレストランKに持ち込ませて頂きました。妻の誕生日祝い兼真珠婚祝いということで、いつも以上にお祝い気分です。
 当日、寒いながらも雪も無く歩きやすい道を二人で、私が先立ち、三尺下がって妻が続きます。Kに着いて、一番奥の部屋に案内されましたが、他の予約客もあって、少し待たされたのも、お祝い気分を盛り上げる効果があるというものです。まずスパークリングワインをもらい、オードブルはカニの料理と野菜サラダです。冬の味を堪能しながら、ゆっくりとスパークリングワインを味わいました。
 KのK.Y.夫人が、届けておいた1991年のGRAND VIN CHATEAU LATOURをデキャンターして持ってきてくれましたが、様子が少し変。「先生、これ、1991年のワインではなくて、1945年のワインですよ!」と驚くべき言葉。そこでよくよくボトルを見ると、確かに1991の斜め下に1945年の文字。これは一体何事? 後で知ったのですが、1945年に醸(かも)したワインを1991年にリコルクしたワインという意味でした。
 1945年と言えば、5月にナチス・ドイツが降伏し、8月15日に天皇陛下の終戦の御詔勅(ごしょうちょく)の発せられた年です。フランスにとっては、にっくきナチス・ドイツから祖国が解放された年で、その秋のぶどうの収穫期には、きっと大喜びの農民が総出で収穫しワインの杜氏(とうじ)(?)さんが心を込めて醸したであろうワインだったのです。終戦後76年の敗戦国であったわが日本国の、会津若松でまさか飲まれるとは思ってもいなかったでしょう。
 ワインはさすがに澱(おり)が多かったものの、色は少しレンガ色がかった、それでも奇麗な紅色を残し、酸味と渋みが口に程良い味わいでした。ステーキを口に嚙みながらワインを口にすると、素敵なマリッジです。ゆっくりと時間を掛けて飲んでいると、少し甘味や果実味も感じられるようになります。歴史に負けず、空気に触れた時間の経過にも衰えないワインの強さに感動さえ覚えました。
 これからの私達の結婚年齢も、このワインに負けずに長く続くように、と言っても、令和4年に古稀を迎えた私ですから、人生のゴールがほの見えています。それでも、傘寿にエメラルド婚を祝えたらと願っています。

福島県 福島県医師会報 第84巻第3号より

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