閉じる

令和5年(2023年)2月20日(月) / 日医ニュース

災害の国 日本の災害医療活動心得―常総水害・大子町水害と医師会の関わり―

勤務医のページ

災害の国 日本の災害医療活動心得―常総水害・大子町水害と医師会の関わり―

災害の国 日本の災害医療活動心得―常総水害・大子町水害と医師会の関わり―

そもそも災害とは何か?

 思い浮かべやすいのは東日本大震災や台風災害などの自然災害であるが、医療の観点から見た災害とは、「医療の需要と供給のバランスが大きく崩れた状況」と言えるであろう。
 非災害との声もあるが、長期化したCOVID―19医療マネジメントはまさに感染症災害であり、災害的思考を必要とする危機管理である。COVID―19に関しては別の機会に譲るとして、筆者の勤務地である茨城県は、過去20年ほどでさまざまな経験をした。
・1999年9月30日:東海村JCO臨界事故
・2011年3月11日:東日本大震災
・2012年5月6日:茨城県つくば市竜巻災害(F3)
・2015年9月9日~:関東東北豪雨による常総水害
・2019年10月12日~:令和元年東日本台風(台風19号)による大子町水害
・2020年3月~:COVID―19感染症災害
 災害医療の特殊性はその遭遇機会にもあると言える。救急医療は平時から求められている領域であり、専従として成り立っている。災害医療は救急医療に近いと認識されることも少なくないが、むしろ異なる部分が多く、単純に延長線上にあるとは言えない。

災害医療コーディネーター

 災害医療に関与している医師には周知の内容である。東日本大震災などの経験から、大規模災害時に被災地域で適切に保健医療活動の総合調整が行われるよう、災害医療コーディネーター(以下、DMC)の運用、活動内容などが定められ、大半の都道府県で都道府県DMC、市町村で地域DMCが委嘱されている。
 国や日本医師会により2014年から養成研修が始まり、茨城県では5名(県医師会推薦2名、DMAT推薦2名、日本赤十字社推薦1名)が2015年7月に県知事から委嘱されたが、その2カ月後には、関東東北豪雨により茨城県は鬼怒川堤防が決壊し、常総市を中心とした水害に見舞われた。

被災地(医療)情報の裏取りと災害医療開始スイッチを押すことの難しさ

 県災害対策本部設置から1時間後、県庁保健医療担当部署には予想どおり、正誤混じり合った情報があふれ、情報発信者不明なものも含めて、情報整理とはほど遠い状況であった。災害医療における「情報」の裏取り、そして現在必要な情報か否かの判断と記録の重要性を再認識した。
 茨城県からDMATへの正式出動要請は午後5時30分。「医療ニーズは無い」と渋っていた担当部局だが、日没時点で200名以上が救助待ちで、今後、夜間低体温症などの発生が予想されるとして、患者発生時医療班現場待機の必要性と責任問題を強く訴えた結果である。
 また、その際、前線医療機関DMAT関係者も、予防的出動のビジョンを持っていなかったことも驚きの一つであった。

知名度ゼロのDMC活動と県医師会の関わり

230220i2.jpg 発災翌日は、県庁DMAT調整本部を県内と外部支援隊員に委ね、亜急性期活動の準備に入った。9月11日、当時の小松満茨城県医師会長主宰のJMAT茨城・四師会会議(県医師会、県歯科医師会、県看護協会、県薬剤師会)が開かれた。当時、DMCの知名度はゼロ。そもそも所属組織も明確ではなかった。
 県DMCである石渡勇、海老原次男茨城県医師会両副会長(当時)は、県内中核病院医療班手配に尽力され、DMAT各隊から被災地医療支援活動をJMAT茨城などが引き継ぎ、9月15日には県医師会災害復興医療連絡協議会が開かれ、被災地医療ニーズの減少などの現状報告や、これからの医療支援について議論が行われた。
 県医師会が設定した医療連携の場で地元医師会、医療機関などとの早期情報交換などが奏功し、支援医療の空白期間なく、9月17日に地元関係機関に委ね、DMC活動は終了となった。
 当時、JMAT茨城各隊は安全確保や定時報告に難があったが、これらの経験から4年後の大子町水害では、JMAT茨城各隊で現場活動の質が向上した。地元密着型でネットワークを有する県・郡市医師会は、他の関係機関より被災地に近い存在であろうと感じている。

災害医療活動の終わりは......

 災害医療は被災地の保健衛生面も関与するため、年単位での関与が必要となる。災害亜急性期から慢性期に、関係者で事後検証会などを設けることが多い。そこでは災害時の行動や支援実績を資料として使うことが通例であるが、重要な論点は、「実践できなかった活動を次なる有事の際にいかにすれば実現できるか」である。表現の仕方と雰囲気によっては非難と捉えるメンバーもいるため避けられがちである。
 東日本大震災や竜巻災害、水害後の検証時もその傾向は見られた。全力を尽くした関係者にとって精神的にもつらいことだが、「目の前の患者を救うために全力を尽くす」という理論が成立しない異常な有事環境であるため、平時基準で自画自賛することより、より多くの被災者を救うために実践できなかったことを明らかにする貴重な機会である。
 災害大国である日本の医療人は市民以上により災害への準備が必要である。『関東大震災から100年』、感染症災害に続き今後予想される災害は何か? 火山の大爆発や大地震などの自然災害か、不安定な国際情勢による人為的な何かはあまり考えたくはないが、日本の医療人は常に災いへの対応を考えていなければならないのであろう。

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる