医療の高度化、物価高騰、人件費上昇など医療費を上げなければならない必要性は多々ありますが、現行では医療費の上昇は高齢者の増加分しか認められていません。ここ数年は医療費本体部分を上げるために、薬価を下げることで、財源を捻出してきた経緯があります。しかし、薬価を下げることにも限界があり、あまりにも薬価が安くなってしまった中、原材料費の高騰などで製造を中止してしまった薬剤もあるのは先生方もご存じのとおりです。
本来であれば、社会保障費全体を増やすことで医療費も増やすことができれば、このような問題は起きないのですが、政府の財政規律維持のためにこの方法は取りにくい状況です。医療費本体部分を増やすためには、新たな財源を探すか、医療費の効率化によってどこかの医療費を減らす必要があります。今回は医療費の効率化の一環としての「ポリファーマシー問題」を取り上げてみたいと思います。
他院から紹介を受けた外来と入院の高齢者の薬剤処方を見てみると、外用薬も含めて5剤以上の処方を受けている方がかなりの率でおられます。むろん、高齢化に伴い多剤併用療法が必要な患者がいることは確かですが、薬剤の処方の理由がはっきりしない場合もあります。
例えば、「不眠がない高齢患者に睡眠導入剤の処方」「上部消化管症状が全くないにもかかわらず、長期のPPIの処方」「総コレステロール・中性脂肪共に低いにもかかわらず、スタチン剤の長期処方」「血圧が低いにもかかわらず、複数の降圧剤の処方」「痛みが治癒しているのにNSAIDsの処方継続」など、多くの処方例が見受けられます。
多剤併用処方がどうして起きてくるのかを考察してみますと、「複数の医療機関に通院しており、各医療機関からそれぞれの処方を受け取っている場合」「急変時に入院をして、そこで処方薬が増え、退院後もその処方が継続されている場合」「40~50歳代に始まった処方が高齢になっても継続されている場合」「入院中の4人部屋で不眠があり睡眠薬が処方されているが、自宅退院後も継続されている場合」など、多数の理由がありそうです。
東京大学医学部附属病院の報告においても、5剤以上で転倒リスク増、6剤以上で薬剤関連有害事象の増加が報告されています(小島太郎、2012)。
75歳以上の方は約1800万人、65~74歳は約1830万人です。仮に、治療に支障が出ないという条件の下で、75歳以上の20%、65~74歳の10%の高齢者の1日当たり100円分の処方薬を減らすことができれば、年間で約2000億円の医療費の削減効果になります。調剤薬局の調剤料なども含めると、削減効果は2200億円程度になるでしょう。
この薬剤費削減部分を本体部分に回す方が、患者のためにもなるでしょうし、我々もより良い医療ができると思います。
ポリファーマシー対策を薬剤師にさせるという意見がありますが、薬剤師は重複薬チェック程度なら可能でしょうが、それ以外の処方薬剤の中止はできないでしょう。なぜならば、処方権は医師のみに存在する上に、処方せんからの情報しか見ることができない調剤薬局の薬剤師に臨床上の処方薬の是非を判断することは不可能だからです。
医療費本体部分を増加させ、初再診療・入院基本料を上げるためにもポリファーマシー問題を今一度、考えていく必要があると思います。
(日医総研副所長 原祐一)