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令和5年(2023年)6月20日(火) / 南から北から / 日医ニュース

高齢ドライバーに饅頭(まんじゅう)ひとつ 救える命もある!!

 高齢ドライバーの重大自動車事故の報道に接するたびに、被害者は青天の霹靂(へきれき)のごとく、一瞬にして命を失い、当事者は無論であるが、ご家族の無念さを、他方、自分と同世代の無辜(むこ)の高齢者が、図らずも加害者になり、一瞬にして、営々として築き上げた人生を台無しにし、まさに、晩節を汚す結果になった無念さを思うと、何とか、防げなかったのかとの思いを強くする。
 国は、その原因として高齢ドライバーの認知症に的を絞り、種々対策を講じている。原因は、本当に認知症のみなのだろうか。何か、他にもある原因を見落とし、救えるべき手段を講じないままになっていないだろうか。
 高齢者の病態的特性、自分も超高齢者になって体験するようになった身体症状、それが高齢ドライバーの重大自動車事故のある種の事例の要因ではないかと考えるようになった。それは、老年症候群にも含まれている低血糖症である。
 ある日の午前中、墓参(ぼさん)のため淡路に。正午頃帰宅、淡路の道の駅で購入した、太めの巻寿司である健康巻き(すし飯が少なく、具が多く、しかも具は野菜が多く、動物性食材僅少(きんしょう))一本を家内と分け合って食する。
 午後、間食せず、デスクワークを続ける。18時頃、気分が悪く、全身倦怠(けんたい)感もあり、ソファに横になる。血圧は常より高く、頻脈気味。食欲は無かったが、大盛りのカレーライスを食べ、低血糖の可能性もあると思い、饅頭を追加した。しばらくすると、気分も良くなり、血圧、脈拍共に正常化した。
 テレビを見ると、先日の東京、池袋での高齢ドライバーによる重大自動車事故に続いて、この日も神戸市で、高齢の市バスの運転手が、似た重大自動車事故を起こしたと報じている。
 このニュースを見ながら、自分が1時間程前に陥っていた低血糖と思(おぼ)しき状態で、たまたま自動車を運転していたらどうなったであろうかと振り返って考え、ぞっとする感を抱いた。
 高齢者は低血糖になりやすいか、その時の認知機能は?の解答を求め、実験を行った上、東京池袋例、神戸市バス例、前後の高齢ドライバーによる重大自動車事故9例の事故について検討してみた。これらの成績を日本糖尿病学会中国四国地方会で、また、論文を「Diabetology International Vol.11,2020」でも発表し、世の関心を引き、問題が解決する方に進展することを期待したが、必ずしも事態はそのようには展開しなかった。
 そこで、高齢ドライバーが免許証更新時に受講が義務付けられている高齢者講習会で、低血糖の問題に触れてもらうことにした。あらかじめ指導員を対象に、推定しうる低血糖の重大自動車事故発生の機序についてお話しした。
 すなわち、アクセルとブレーキの踏み間違えが多くの事例の事の始まりである。ブレーキと思ってアクセルを踏み間違えた際、運転者は減速すると思ったのに、車は加速し始め、おかしい、何とかせねばと、ブレーキと思って間違えているアクセルを思い切り踏み続ける。その結果、車は時速100キロメートルの異常速度になり、そのパニック状態が2、3秒続くと、車は55~83メートル進行し、次の交差点に突っ込むことになる。
 問題は車が予期に反して、加速し始め、おかしいと思った時、異常が起こった原因が何かと、とっさに判断できるか否かである。低血糖の状態で、認知機能、思考力が低下している場合、瞬時に、誤操作が原因だと判断できにくく、それが2~3秒続くと、上述の大惨事になる。
 このような重大自動車事故を防ぐために、次のような方策を提案したい。
 空腹時には運転をしない。食後2時間以上経っている時には、どら焼き、または大福、またはドーナツを一個食べて運転する。2時間以上運転することが予想される場合、運転し始めて1時間ごとに、どら焼きなどを補食する。糖尿病者、胃切除者、医師に間食を止められている者などは、運転に際しての補食について、医師とよく相談して、その指示を受けるようにする、などである。
 これらのことが世間一般に広く知れ渡るためには、文字媒体での出版も必要と考え、「高齢ドライバーに饅頭ひとつ」なる拙文(せつぶん)を世に問うた。
 高齢ドライバーの重大自動車事故に、どれほどの割合で低血糖絡みのものがあるか分からないが、それを起こした高齢ドライバーにとっては、それは100パーセントである。そのような不幸な事故を起こす可能性のある方が、饅頭を食することで、難を免れ、その類いの事故が皆無になることを念じている。

(一部省略)

徳島県 徳島県医師会報 NO.624より

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