私の両親は昭和一桁生まれのため、「食事は頂ければ幸せ。うまい、まずいなどと言ってはいけない」という教育を受けていた。実際私は何を食べてもおいしいので幸せな人間である。
アメリカ留学時代はガロン単位で売っている安ワインをおいしく飲んでいた。20年以上前になるが、ある研究会の懇親会で利きワインの会があり、普段ワイン通を自称している有名な先生達が外しまくって、何だ私と同じレベルではないかと思った。ホテルのハウスワインは無名だがおいしいものを選んでおり、ワイン通は皆だまされたのだ。
何を食べてもおいしく感じる私だが、実は自分の味覚が鋭いのではないかと思ったエピソードがある。
私は中学時代バレーボール部に所属していた。当時はスポーツ医学が発達しておらず、運動中の水分補給は禁忌とされていたため、練習後の飲水は何よりの楽しみであった。
ある日の練習後、水道水を飲むと、とにかくまずい。中学校のいろいろな場所の蛇口で飲んだが、どこもまずい。ところが11人の同期に尋ねても、誰もまずく感じないと言う。
仕方がないのでそのまま帰宅して自宅の水道水を飲んだが、これもまずくてたまらなかった。のどが渇いて仕方がないので、自宅近くの店でスプライトを購入して飲んだら、そのうまいことうまいこと! 本当にのどが渇いた時はコーラでなくスプライトだ。
家族も誰一人水道水のまずさは感じていなかったが、ニュースを見ながら夕食を食べていると、NHKがその日は信濃川の水が逆流したため水道水の味が劣化したと報じていた。おお、微妙な味の変化に気付いたのは私だけだったのかと驚いた。
実は私にはグルメの素質があるのかも知れない。だがどんな安酒場でも何でもおいしく感じてしまう幸せな人間なのである。