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令和6年(2024年)3月5日(火) / 日医ニュース

これからのかかりつけ医機能及び将来の感染症危機対応の一助となることを目指して

これからのかかりつけ医機能及び将来の感染症危機対応の一助となることを目指して

これからのかかりつけ医機能及び将来の感染症危機対応の一助となることを目指して

 日本医師会総合政策研究機構「欧州医療調査報告会」が2月8日、日本医師会館大講堂で開催されるとともに、オンライン配信された。
 本報告会は2023年5月から6月にかけてイギリス、ドイツ、フランスに派遣された調査団による、現地の新型コロナウイルス対応とかかりつけ医機能のあり方について実態調査を行った結果を、各医師会並びに医師会員、更には国民に広く情報共有し、これからのかかりつけ医機能及び将来の感染症危機対応の一助になることを目指して開催されたものである。
 城守国斗常任理事の司会で開会。冒頭、あいさつした松本吉郎会長は、今回の調査団派遣について、「かかりつけ医機能には、登録制や認定制などの制度化を主張する意見があるが、それぞれの国でかかりつけ医はどのような機能を果たしているのか、十分な資料がこれまでなかった」と派遣に至った経緯を説明。本報告会に関しては、今後の医療を考える上で欠かすことのできないかかりつけ医機能のあり方について、多くの関係者等と共に考える機会となることに期待感を示した。

報告

 続いて、鈴木邦彦茨城県医師会長を座長として、4題の報告が行われた。
 森井大一日医総研主席研究員は、「欧州医療調査の概要報告」と題して講演。
 かかりつけ医制度(登録制)のあるイギリスとフランス、かかりつけ医への登録義務の無いドイツのコロナ禍における医療提供体制の実態について、(1)イギリスでのGeneral Practitioner、日本でいうかかりつけ医(以下、GP)の機能不全の一因は、医療・介護・福祉の分離ができていないことにあった、(2)ドイツは医師の偏在対策として計画配置をしており、コロナ患者の20分の19を開業医が診察したことで病院機能を守る防御壁となった、(3)フランスでは第1波においてコロナ対応窓口を救急病院に一本化したことで混乱を招いた経験を経て、フリーアクセス制を敷いたことで第2波以降の混乱を抑えた―などの調査結果を概説した。
 WEBで参加した松田晋哉産業医科大学医学部公衆衛生学教授は、「独仏のかかりつけ医(家庭医)について」と題して、両国の医師の働き方や地域ごとの分布などに着目しながら、(1)フランスでは、医師の過重労働問題により若手医師の働き方に関する意識が変化し、労働時間規制の対象とならない開業医(個人事業主)よりも勤務医であることを選ぶ傾向が強くなり、大都市圏でかかりつけ医が見つからない住民が増えている、(2)ドイツでは地域ごとの医療の需要計画に基づき医師を配置しているが、専門診療科領域における開業医が不足している―ことなどを説明した。
 また、日本においても、かかりつけ医は必ずしも「総合医」ではないとした上で、専門医としての総合診療医と、長い臨床経験の中で総合診療的な技能を身につけた各診療科の専門医が、重層的にかかりつけ医となっていくことが良いのではないかとの考えを示した。
 香取照幸兵庫県立大学大学院社会科学研究科経営専門職専攻特任教授は、「コロナ禍における医療の逼(ひっ)迫~日本の医療提供体制形成の歴史的経緯~」と題して、日本の医療提供体制の成り立ちをたどるとともに、訪問したイギリスの医療提供体制との違いを説明した。
 その中では、(1)中小病院と診療所が地域に併設されていることによって、高いレベルの医療が地域内で完結している日本と比べ、イギリスでは中小病院が無く、1000床以上の大病院と、予防や健康管理・ヘルスプロモーションが中心となるGPで二極化しており、医療の連携という観点で、診療所と病院に大きな溝がある、(2)GPは7割が非常勤の医師であり、病院勤務医や専門開業医がパートタイムでGPとして診療する形態も増えている他、GP診療所はPCN(Primary Care Networks)という形で組織化され、栄養士や薬剤師、作業療法士など、さまざまな職種が雇われることで、タスクシフト・タスクシェアが行われている―ことなどを紹介。日本が特に学ぶべき点として、医療情報の連携が完備されており、担当患者の医療情報は全て閲覧できる点が挙げられるとした。
 武田俊彦内閣官房健康・医療戦略室政策参与は、「わが国に今後求められるかかりつけ医機能」と題して、コロナ禍におけるイギリスの対応を振り返るとともに、日本の医療政策の変遷などについて解説。「医療機関の機能分化に際しては、過度なインセンティブや抑制をかけずに、必要な機能を果たす医療機関には、どの機能であっても安定的運営が確保されるべき」とした上で、将来の医療提供体制の主体は民間医療機関が担うようにしなければならないと強調した。
 更に、これまでの大きな方向性を決めたものとして2013年の「日本医師会・四病院団体協議会合同提言」を挙げ、医療提供体制を担う当事者の提言であったという意味でも大きな意義があったのではないかとした。

パネルディスカッション

 続いて、座長に原祐一日医総研副所長を加えて、現地参加の3名の報告者によるパネルディスカッション(写真)が行われた。
 冒頭、WEBで参加した2名の本調査団員から特別発言があった。
 二木立日本福祉大学名誉教授は、現地で調査を行った印象を「百聞は一見に如(し)かず」と総括した上で、(1)ドイツでは国民の90%は家庭医をもっているが、書面による正式な契約ではなく、医師と患者の信頼関係に基づいている、(2)フランスでは、2004年に国民の主治医登録が義務化されたが、登録していない国民が全国平均で12%存在し、貧困者の多い地域では17%にも達している―などの調査結果を紹介した。
 新田國夫日本在宅ケアアライアンス理事長は、欧州と日本の医療機能の分化を比較した上で、欧州のように専門医と家庭医が完全に分化したものと、日本のように複合型診療所、グループホームや訪問看護などの多機能を併せ持つものとのどちらが、高齢社会を迎える日本において適切かは今一度議論をする必要があるとするとともに、「単に財政面だけを見て機能分化をした方が良いということはないだろう」と述べた。
 その後、報告内容を踏まえた欧州の医療提供体制に関する質疑や、かかりつけ医制度における今後の展望について活発な議論が行われ、角田徹副会長の総括により閉会となった。

お知らせ
日医総研「欧州医療調査報告会」の動画は、下記のYouTubeで公開していますので、ぜひ、ご覧下さい。
https://youtu.be/F9iot0LfMcI240305d2.jpg

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