令和6年能登半島地震では、重装備の日本医師会災害医療チーム(JMAT)が要請されていた。自衛隊や消防隊ですら展開が容易でない状況下では、当然の要請である。
私が住む新潟県も含めて、全国には平時でも重装備での訪問医療が行われている地域は少なくない。携帯の電波が圏外のエリアを数十キロメートルも走る。向かう途中には事件・事故だけでなく、大雨や雪による立往生や孤立の危険もある。そのため、4WD車に非常用品を積んで出向いている。
かつて勤務した豪雪地の病院では、毎年「越冬隊」がやって来た。と言っても、除雪ボランティアではなく、越冬入院の患者達である。無医地区に住む高齢者が、雪が積もる前に、街の病院に「今年もお願いします」と段ボール箱を抱えてやって来る。小さな冬の風物詩であった。
ひと雪降った後は除雪されず、翌春まで何カ月も道路が不通となる。医療へのアクセスが遮断された状態では、災害関連死のごとく、病気自体は重症でなくとも死に至ることがある。
越冬入院中に、偶然、脳梗塞を発症した患者がいた。幸い麻痺(まひ)は軽く、短期間で回復したことで、「早い治療(当時は対症療法のみ)のお陰で助かった」と大いに感謝された。これが自宅なら、自由が利かない体では脱水や低体温症となり、危ない状態になったかも知れない。
近年は、在院日数や重症度による縛りのために、「越冬隊」を受け入れることは困難となった。代わりに、厳しい環境の中で暮らしている人達を、重装備の訪問医療が支えている。地域医療はさまざまである。
(骨コツ)