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令和6年(2024年)7月5日(金) / 南から北から / 日医ニュース

鮑サザエ食い放題

 今から40年以上も前の話。入局して最初の夏休み、佐渡の診療所の仕事を頼まれた。毎年夏だけ交代で派遣されるのだが、どうしても埋まらない日があるという。室長からの命令に気乗りしない顔をしていたら、「佐渡はいいぞ、鮑サザエ食い放題だ!」と言う言葉につられて引き受けてしまった。
 3日間の診療所勤務だ。午前中は高血圧、糖尿病、胃潰瘍(かいよう)など10人くらいの診察だった。ゆったりとした時間が流れる。午後は暇なので目の前の海に行ってきていいですよと言われ海に入った。外海府(そとかいふ)の海は冷たくて1メートルも行くと足が立たず、沖に流されそうで怖くなった。
 「先生~、患者さんが来ています」と言う声に診療所に戻り、数人の診察で一日が終わった。夜になるとすることが無い。テレビもNHK1局しか入らない。散歩しても開いている店は1軒だけ。食料品の他には蚊取り線香、サンダル、浮き輪など何でも扱っていた。仕方なく花火を買って浜辺で打ち上げたが、あっという間に終わってしまった。あとは真っ黒な海が横たわっているだけだった。
 さて肝心の食事の話。最初の日の夕食はイカの刺身だった。翌朝は潮イカがおいしかった。昼の弁当はイカのリング揚げ。帰ってからの夕食はイカフライだった。鮑もサザエも出てこない。
 宿の主人に恐る恐る尋ねてみた。「お客さんそれはだまされたんだ。でも食べたいなら探してきてあげるよ」。2日目の夕食にはサザエのつぼ焼きが出た。3日目の夕食、大きな鮑の刺身が登場した。両津の魚屋まで行ってみたが、売ってないので漁師さんから直接仕入れてきたという。ようやく鮑とサザエを口にすることができた。
 帰ってからその話をすると、「お前、真に受けたのか」と大笑いされたが、今となっては懐かしい夏休みの出来事だった。

 (一部省略)

新潟県 新潟県医師会報 NO.882より

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