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令和6年(2024年)9月20日(金) / 日医ニュース

「医師会組織強化と勤務医」

勤務医のページ

 今号では8月20日号(別記事参照)に引き続き、勤務医委員会(委員長:渡辺憲前鳥取県医師会長)が取りまとめた答申の概要を紹介する(日本医師会ホームページに掲載)。

勤務医のキャリア形成や働き方を支援する医師会の取り組み

1.医師の研修・キャリア形成における医師会の積極的関与

 勤務医における専門医等の資格取得志向は高く、医師会が主催する研修会も、専門医制度の単位取得に活用できるよう配慮することが求められる。更に、一般的な医師としての知識や地域医療を担うための研修、資格の取得についても医師会の主体的関与が求められる。
 医師会が主催する研修会の利点は、(1)所属する機関横断的、もしくは専門領域を超えた内容の研修会の主催、(2)多職種や関係行政機関も協働する地域を挙げての情報共有と研修の場の提供―ができることである。京都府医師会では、臨床研修屋根瓦塾の他、「KMA.com」というSNS上のサイトを設け、学術コンテンツ等を提供している。
 また、産休や育休などの制度については、職場や組織としての理解醸成や支援が求められるが、京都府医師会の「妊娠に際し職場のみんなで読むマニュアル」の作成などは、有用性が期待される。
 医局に所属しない医師は、医局が担ってきたキャリア形成等における支援が受けられない他、就職や転職の際には斡旋(あっせん)業者を活用しており、医療機関には多額の費用負担が発生している。また、定年に伴う再就職の必要性も増加しており、ドクターバンク機能の更なる充実が求められている。
 多様な医師としての人生を歩む勤務医にとっての医局に代わる所属母体となり、医局が担ってきたさまざまな局面での支援を医師会が提供することが重要である。

2.医師の働き方改革への医師会からの支援のあり方

 医師の時間外労働の上限規制施行により、救急医療を担う大学病院、公的病院等や、産婦人科、小児科等の平日の勤務体制が滞ることが危惧(きぐ)されている。
 各都道府県医師会では、医療勤務環境改善支援センター(以下、勤改センター)と共に活動を行うことで成果を上げている事例が多く見られ、例えば富山県では勤改センターを県医師会内に設置し、社会保険労務士に相談できる体制がつくられている。
 また、一般市民に対して医師の働き方改革の必要性を理解してもらうことも重要となる。
 例えば北海道医師会による『医師の働き方改革をご存じですか?』という動画の作成や、富山県医師会におけるいわゆる「コンビニ受診」抑制を目的としたビデオの作成、岩手県医師会や福岡県医師会におけるポスターやリーフレットの作成、配布などはその参考となる。
 更に、医師会並びに勤改センターが医療機関への相談・支援を継続し、医療機関の勤務環境を検証していくことも勤務医の健康を守る上で重要である。
 そして、何より医師の働き方改革は自分自身のことであるという認識を勤務医に持ってもらうため、講演会の開催等により医師会は情報や知識を啓発していく必要がある。全ての勤務医へ働き方改革を啓発するリーフレットを配布している鳥取県医師会の取り組みは一つの参考になる。

医師会組織の課題

1.医師会組織の三層構造と会費のあり方

 日本医師会では、医学部卒後5年までの会費減免を実施しているが、多くの若手医師は短期間で勤務先が変わることが多く、入会しても移動に係る手続きの煩雑さから退会することも少なくない。
 令和3年度から茨城県医師会で導入された「勤務医入会サポートデスク」は、40歳以下の勤務医会員の年会費を2万4000円に統一することに賛同した郡市区等医師会の入退会・異動手続きや、会費請求及び日本医師会・県医師会に関わる手続きをサポートする取り組みである。WEBやメールで完結するため入会のハードルが下がり、移動に係る退会を防ぐことができると好意的な意見が寄せられている。
 現状の三層構造を変えない場合でも、例えば「医学部卒後6年目以降も減免率を漸減させながら会費減免を継続し、卒後11年目にB会員の正規の会費とする」ことや、大学医師会所属の医師については、関連病院への派遣期間も大学医師会所属を継続する等の方策も、勤務医の入会促進並びに会員継続に有用と考える。

2.会費減免の効果を最大限に高める視点から

 会費減免期間が過ぎた後に若手医師が退会する可能性があるという問題に対処するためには、以下の三つの視点を踏まえた制度改革が必要であると考える。

(1)会員情報のIT化

 三層全ての医師会で情報を共有することで、入退会や異動に伴う事務手続きの簡素化が可能となる。令和6年10月末に公開予定の日本医師会の新会員情報管理システムは、将来的に会費請求や会員への情報伝達にも利用されるべきである。

(2)入退会・異動及び会費納入手続きの障壁を除去

 事務手続きはWEB上で行うことが望ましく、茨城県医師会が展開する「勤務医入会サポートデスク」のように、異動及び移動に係る手続きの煩雑さや、会費減免期間終了に伴う退会を減らす試みは有用である。

(3)医師会継続の意義・メリットを理解してもらう

 医師賠償責任保険などの会員としてのメリットを会費減免期間内に実感してもらう他に、例えば、英文投稿誌である「JMA Journal」の投稿料を有料化し、会費減免期間及び同期間終了後の一定期間を無料期間とすることなども有効であると思われる。
 また、基本領域の申請に必要な日本専門医機構の共通講習を、勤務医が参加しやすいようにWEBで行うことや、「日医e-ラーニング」にて無料で共通講習の単位を修得できるなどの会員サービスの充実も、勤務医には好感をもって受け止められるであろう。

地域医師会の議論を医療政策につなげるために

1.医療現場の声を日本医師会に、そして、日本医師会の考え方を医療現場に届けるために

 勤務医の代表者としての機能と認知は日本医師会にとって極めて重要なテーマと考える。また、幅広く勤務医の意見を拾い上げ、集約し、同時に日本医師会の活動や施策に関する具体的な情報を現場に提供することも極めて重要である。
 勤務医を取り巻くさまざまな課題について、日本医師会や各都道府県医師会の代表者が一堂に会して検討する場として、全国医師会勤務医部会連絡協議会や都道府県医師会勤務医担当理事連絡協議会等が既に設置されている。しかし、これら全国規模の協議会では時間的な制限もあり、課題を継続的に議論し、具体的な提言につなげることが難しい。
 この点を解決する仕組みとして、常設の勤務医部会や委員会の設置等、全国8ブロック医師会の勤務医活動を重視し、設置に向けた具体的な動きを本委員会としても後押ししていきたい。

 2.日本医師会勤務医委員会のあり方と役割

 医療政策のほとんどが勤務医に関わり、地域医療における勤務医の役割が増大している状況においては、より多くの勤務医が医師会活動に参画し、政策・制度に対して適切な提言を行いながら、開業医と協働で地域医療を守ることが必要である。
 一方で、日本医師会及び都道府県医師会役員の勤務医比率は依然として低いのも現実であり、本委員会でこれらの課題の分析と解決への道筋を探ることも重要である。
 また、本委員会では、日本医師会へ時宜にかなった提言を行うことの他、全国8ブロック医師会より推薦された委員には、各ブロック医師会における議論を本委員会へ持ち寄ると同時に、本委員会での議論を各ブロック医師会へフィードバックし、より充実した重層的議論を行っていく要(かなめ)の役割も期待したい。
 多くの意見を集約し、提言につなげることのできる、真に勤務医のエンパワーメントに資する委員会を目指していくことが重要であり、それがひいては、日本医師会の組織強化につながっていくと考えている。

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