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令和6年(2024年)9月20日(金) / 南から北から / 日医ニュース

ホッカイダーへ贈ろう!道産子の美学

 2020年、夏休みを利用して斜里岳ソロ登山を計画した時のこと。前日に近場でソロキャンプし、翌朝登山口に向かった。お盆時期で登山口にはたくさんの車が置いてあり、およそ半分は"わナンバー"のレンタカーで、コロナ禍最初の夏、都会の密を避け遠くから来ていることを想像した。
 登山開始して5分、同じタイミングで近くを歩いていた、背の高い男性2人組にあいさつした。2人とも帽子にマスクにサングラスと、都会だと物騒な格好だが、晴天のコロナ禍なので仕方ない。最初は軽く会釈程度で「地元の方ですか?」と聞かれたので「ええまあ、一応道産子です」と答えた。
 聞けば2人組は、会社の夏休みを利用して関東から自家用車とフェリーで来たという。しかも何と昨日旭岳に登り、そのまま斜里岳に向かい近場のキャンプ場泊、つまり2日連続の山行とのこと。2人とも20代後半とのことで、さすが若くて元気である。見た目はコンビ二強盗風だが、大学の同級生だという2人組の会話内容が、端的に言って上品であり、我々口さがない道産子との差を感じた。私も年齢を聞かれたので「もう46になります。子ども6人いますが全員山登りは絶対嫌だと」と答えると「えー! 俺らよりちょっと上くらいかと」と驚かれた、ことに気を良くしたわけでもないが、互いに斜里岳は初めてということで意気投合し、私はこの2人組と一緒に登山することになった。
 さて、斜里岳は登りと下りで別ルートを取ることが可能で、しかもちょっとした渡渉(としょう)(沢登り)ルートもあり、景色と道のりの変化を最後まで楽しめる。斜里岳初登山の3人組は、それなりの社会的距離を保ちつつ、私が道を間違えて迷いそうになった時、若者がスマホのナビを駆使して正しい道に戻してくれたり、途中若者の1人が頂上手前で水を切らし、軽く熱中症気味だったので、私の水を分けてあげたりと、お互いに助け合いながら無事登頂を果たした。下りでは、一人登山だと往々にして飽きがきて、心の中で自問自答しながらの下山となるのだが、若者の「自分がいかに北海道を愛しているか」の話が面白く、退屈せず歩けた。
 さてゴールの登山口まであと30分の山道で、若者が歩きスマホで周辺の宿を検索していた。本州の人は歩きスマホは山道でも余裕なのかと感心したが、若者は「さすがにテント泊2日連続はキツイけど、お盆時期だからこの辺どこも高いな。やっぱりテントにするか」。それを聞いて、私はひそかに決心した。
 そして無事、3人一緒に登山口に到着した。このご時勢でも見知らぬ若者達と登山を楽しめたことに感謝し、3人で記念写真を撮った。そして私は、彼らに1万円を差し出した。「おかげで楽しい登山になったからお礼です。ホテルに泊まる足しにしてください。2日連続の登山で疲れてるから、今日くらいはゆっくりホテルで休みなさい」と言って、恐縮する彼らに強引に手渡した。
 別れ際に、彼らの愛車を見せてもらった。筋金入りのホッカイダーであり、道産子以上に北海道を愛し憧れていることがよく分かる車だった。せっかくなので最後に連絡先を交換し、そのうちまた一緒に登ってみたいとも一瞬思ったが、やめた。お金を渡し連絡先まで交換するのは無粋というものである。北海道を愛してやまない自分達に、名も知らない道産子が親切にしてくれた、その思い出が彼らに残ればそれで良い。ホッカイダーへ贈る、道産子の美学である。

(一部省略)

北海道 北海道医報 第1259号より

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