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令和6年(2024年)10月5日(土) / 日医ニュース / 解説コーナー

デンマークにおける医療DX

 本年8月にデンマークの医療DXを視察しましたので概要を報告いたします。
 デンマークはライフサイエンスを国策として最重要産業と位置付け、政府全体での計画を立て、多額の政府予算を付けています。
 ライフサイエンスとは、医薬品のみならず医療ICT製品、健康関連アプリ、医療機器など医療と健康に関する全ての財・サービスを意味します。
 デンマークの輸出品の22%がライフサイエンス関連の製品で、日本への輸出では42%がライフサイエンス関連となっています。ライフサイエンス産業の輸出規模は2008年から2022年までに約3倍に拡大しており、2030年には更に2倍の約7兆円の輸出規模を目標としているとのことです。
 デンマークの人口は約590万人と千葉県より少ないのですが、インシュリン製造で有名なノボノルディスクファーマの本社があり、政府によるライフサイエンス予算の拡大に伴い、同社の株価の時価総額は世界19位、欧州1位となっています。
 診療情報の電子化と二次利用の促進政策も相まって、人口当たり臨床治験数も欧州1位になり、製薬メーカーの発展の一助となり、国民資産の向上に貢献しているとのことです。
 医療情報のデジタル化について国連が世界電子政府ランキングを発表していますが、デンマークは3回連続で1位となっています。政府の電子化が最も進んだ国と言えます(ちなみに日本は14位)。
 デンマークでは、日本のマイナンバーと同様のCPR(Central Persons Registration)ナンバーが1968年から導入され、納税、金融資産管理、診療情報などにCPRナンバーが使用されています。
 診療情報の管理についてはSMR(Shared Medication Record)という電子処方箋(せん)発行システムから始まり、徐々に扱う情報の範囲が広がってきました。現状では共有化されている診療情報が、病名、医師の指導内容、処方薬剤、検査結果、画像などの日々の診療に必要な情報群と、治療結果、処方履歴、死因、バイオバンク情報などの二次利用に利用される情報群の2系統に分けられています。
 ちなみに、デンマークでは1981年以降に生まれた新生児血清を保管することが法律で定められており、数百万人分の血清が巨大な管理センターで保管されています。
 デンマークの医療従事者はSMR経由で患者の診療情報にアクセスすることができ、過去の診療情報を閲覧することが可能です。ただし、全てのアクセスがトレースされており、興味本位や許可されていない研究のために患者情報を閲覧した医療従事者は重い罰則が科されます。
 この方法は欧州諸国では一般的な方法のようです。患者自身も自己の診療情報をスマートフォンなどで閲覧することが可能であり、自分が使用している薬剤を確認し、医師からの指導なども常に閲覧することができるため、治療の一助になり、患者のためにもなるとのGP(General Practitioner)の意見は印象的でした。
 将来の医療は今までどおりの対面診療と、デジタル技術を利用した治療の融合が求められるのだと思います。日本において、マイナ保険証の推進や医療DXが進められていますが、この潮流は世界的なものであることを我々もしっかり認識する必要があるでしょう。

(日医総研副所長 原祐一)

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