この原稿を書いているのは8月初旬ですが、毎年この時期の私は焦りと後悔にとらわれ始めます。と言うのも、いい年齢になってから通い始めたピアノ教室の発表会が日一日と迫ってくるからなのです。
子どもの時に憧れたものの始めるに至らなかったピアノですが、娘がレッスンに通うタイミングでチャレンジしてみようと始めたところ、オンコールで休日も遠出できない時にも自宅で楽しめること、そして始めたばかりの時期にはコツコツ練習しさえすれば何となく進歩している実感が得られたことからだんだん深みにはまってしまい、気付いてみれば20年以上が経ってしまいました。実はピアノを弾き始めてから数年で、私には全く才能が無いことには気付いていたのですが、もはやピアノ沼から抜け出せず万年初心者という状態で今日に至っています。
更に私は極端なあがり症です。思い起こしてみれば、若い頃の学会での発表も動悸(どうき)はするし、手も震える、足も震える状態を何度経験したか分かりません。こちらに関しては自分で実験をしてデータを出し発表することを繰り返すうちに、「これに関しては自分が一番知っている」という自信が持てるようになり解消してきましたが、人前でピアノを弾くことに関してはどんなに練習しても「私が一番弾ける」などと思えるわけもなく、毎年手も足もがくがくの状態でステージに上がり、失敗を繰り返しては「家では弾けたんです~」と心の中で叫び、激しく落ち込むということを繰り返しているわけです。
そんな状態ですからいっそのこと人前で弾くのをやめてしまい、一人でこっそりとピアノを楽しむという道もあるのでは?と考えもしますが、不思議なものでそうすると「是が非でも曲を仕上げる」という気概も無くなり楽しみが半減する気がして、結局毎年エントリーをしては「どうしてこんなものに出るって言ってしまったかなあ」と後悔しつつ、必死にピアノに向かう8月を繰り返しています。恐らく今年の発表会も何かしらの事故を起こしてがっくりという結末に終わると思いますが、落ち込みつつも「次は何を弾こうかな」と考えてしまうのが不思議なところで、まだまだこの沼からは抜け出せそうにありません。
大分県医師会で開催されるドクターコンサートには素晴らしい演奏を披露される先生方がたくさん出演しておられます。私もついはずみでまたエントリーしてしまうかも知れませんが、その時は「性懲りもないやつ」と笑って聴いて頂ければ幸いです。
(一部省略)
大分県 大分県医師会会報 第840号より