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令和7年(2025年)2月20日(木) / 南から北から / 日医ニュース

よもやま話 アザラシ

 昭和30年代、私は、庭のある大きな家で叔父など総勢12人で生活していた。
 今から60年以上前の私が4~5歳の頃、信じられないかも知れないが私の家でアザラシを飼っていた。最初は風呂場で、その後庭に大きな水槽を作り飼っていた。世話は主に叔父がしていた。しばらくは生きていたがその後は定かではない。その頃のことはうろ覚えで、その後も思い出すことはなかった。
 今年7月、74歳の姉が山形に旅行し水族館に行った時、そこにアザラシがいたので、昔のことを思い出し、飼育員さんに、「昔うちでもアザラシを飼っていた」と話をした、とのこと。姉の頭の中ではアザラシがその後どうなったか分からなかったようで、旅行から帰ってきてから、「アザラシの最後はどうなった?」と聞いてきた。
 覚えていないと答えると同時に、「アザラシのことは他人に話さないほうがいいよ」と言った。姉はなぜ?と不思議顔。「認知症と思われるよ」と言ったら不満顔になった。それ以上言うとけんかになるからやめておいた。
 ある日、親戚(父の兄弟はみんな亡くなっている)の集まりで、昔アザラシを飼っていたことを知っているかと聞いてみると、僕より年下のいとこ達がみんな知っていた。アザラシを飼っていた叔父の息子であるいとこは、アザラシのことは、叔父が亡くなってから息子から聞いて、初めて知った、とのこと。亡くなる前に、彼の幼少期の息子(アザラシを飼っていた叔父の孫)にアザラシのことを何度も話をしていたそうで、いとこは叔父が亡くなってから息子から聞いて初めて知ったらしい。
 「どうして今頃その話なの!?」といとこに聞かれ、姉のことを話したら「それは絶対に認知症と思われるよ」と苦笑い。姉の年では、事実でもそのことは絶対に他人には言わないほうがいい。居合わせたみんなも同意見。後日姉にそのことを言うと、やっと自分の年代が分かったようだった。
 結局、アザラシのその後は、誰も知らず迷宮入りである。何となく私もすっきりしない。そのうち僕もアザラシのことを口にするかも知れない。どう思われるか? ゾォッ!

(一部省略)

東京都 渋谷区医師会会報 第65巻第10号より

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