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令和7年(2025年)9月5日(金) / 日医ニュース

言葉の選択

 「リハビリ状況の説明中に家族が突然怒り出した」と職員が報告に来た。「父がやる気がないとは失礼だ!」。怒りの原因は「やる気がない」という言葉であった。もちろん、職員は患者さんを責めたり貶(けな)したりするような言い方はしていないのであるが、「やる気」という表現が家族の気に障った。
 この患者さんは血圧の変動が大きいことによる症状や不安感などから、リハビリに消極的であった。改めて意欲が低下している要因を説明し、家族は納得された。
 「やる気」と「意欲」、どちらも何かをしたいという気持ちであるが、「やる気」は一時的な感情や気分に左右されやすく、比較的軽い気持ちを表すニュアンスで使われることが多いようである。
 以前、当県の医師会誌に「言葉」という題の随筆があった。下腿の震えで来院した高齢女性が複数の病院で検査を受けても異常が無く、「老化によるもの」と言われてしょげていたとのこと。今回も異常が無かったその女性に対し、「これは加齢現象だと、ひとまず納得しましょうよ」と励ました途端、その女性は「加齢現象よね、先生」と喜び、上機嫌で帰っていったそうだ。
 「老化」も「加齢現象」も、加齢に伴って心身の機能が低下することを指す同じ意味合いの言葉であるが、患者さんにとっては「加齢現象」の方がはるかに受け入れやすい表現だったのであろう。
 意図せず、相手に異なる受け止め方をされる言葉もあることを念頭に置き、配慮のある言葉の選択を心掛けたい。

(紗)

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