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令和7年(2025年)11月20日(木) / 日医ニュース

60歳を超えて現役で働く高齢者の増加を踏まえた対応などについて活発に協議

 第46回産業保健活動推進全国会議が10月23日、日本医師会館大講堂でWEB会議システムを用いてハイブリッド形式で開催された。
 開会に先立ち、上野賢一郎厚生労働大臣(代読:佐々木孝治厚労省労働基準局安全衛生部労働衛生課長)、松本吉郎会長、大西洋英労働者健康安全機構理事長、相澤好治産業医学振興財団理事長がそれぞれあいさつを行った。
 松本会長は、現在のわが国の状況として、(1)生産年齢人口の減少等を背景として、60歳を超えても現役で働く高齢者の割合が増えたことに伴い、労働災害における高齢者の割合も増加し、第14次労働災害防止計画でもその対応が重点対策の一つとされ、取り組みが進められている、(2)ストレスチェック制度に関連した労働安全衛生法の改正、治療と仕事の両立支援に関連した労働施策総合推進法の改正や検討会の実施など、事業場の規模にかかわらず、産業保健活動の重要性がますます高まっている―ことなどを説明。その上で、産業保健活動の活性化、諸課題の解決のためには、各関係団体や認定産業医の協力が不可欠だと強調し、日本医師会としても、産業医の組織化を通じて認定産業医の更なる活躍を支援するとともに、関係団体とも連携の上、産業保健活動の活性化に向けた取り組みを推進していく考えを示した。
 続いて行われた中央情勢報告では、佐々木課長が、メンタルヘルス対策としてストレスチェック制度が改正されたことや、治療と仕事の両立支援のガイドラインの概要などを紹介。
 また、産業保健総合支援事業に関する活動事例報告として山口産業保健総合支援センター、高岡地域産業保健センター、那覇地域産業保健センターよりそれぞれ説明が行われた。

251120i1.jpg 引き続き、松岡かおり常任理事が司会を務め、「高年齢労働者の労災対策」をテーマとしたシンポジウムが行われた。

251120i2.jpg 土井智史厚労省労働基準局安全衛生部安全課長は「高年齢労働者の労働災害防止対策の現状」と題して、まず、高年齢者の労働災害状況について、死亡災害は年々減少している一方、休業4日以上の死傷者数は近年では増加傾向にあり、雇用割合で見ると3割を占めていることを説明。その要因としては「高齢化による影響」「第3次産業化による影響」が考えられるとした。
 その上で、高年齢労働者の労働災害の防止対策が重要になるとして、厚労省においては第14次労働災害防止計画を策定し、8つの重点対策の中に「高年齢労働者の労働災害防止対策の推進」が盛り込まれていること等を概説。その他、高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)の作成や、エイジフレンドリー補助金等の取り組みについても紹介し、「国としても必要な指導等を徹底し、高年齢労働者の労災が一人でも減るように取り組みを進めていきたい」と述べた。

251120i3.jpg 赤津順一日本予防医学協会理事は「エイジフレンドリーガイドライン」と題して、社会の高齢化に伴って同協会が行ってきた高年齢労働者対策について説明した上で、高齢化への対応としては、(1)労働適応能力・健康の変化、(2)労働適応能力のばらつき―への対応が求められるばかりでなく、人と場の両面のリスクへの対応の他、エイジマネジメントを行うことが必要になると強調。同ガイドラインの中でも「事業者に求められる事項」だけでなく、「労働者に求められる事項」についてもまとめられているとして、国・関係団体等による支援も活用しながら、事業者だけでなく、労働者も協働して取り組むよう呼び掛けるとともに、「エイジフレンドリーな考え方で職場をつくっていくことは、健康な日本をつくっていくことにもつながる」との考えの下、同ガイドラインが更に活用されるよう取り組みを進めていく考えを示した。

251120i4.jpg 松葉斉松葉労働衛生コンサルタント事務所代表は「高年齢労働者の安全と健康の確保について」と題して、まず、「データだけでなく、労働者の実際の声にも耳を傾けて欲しい」と前置きした上で、保健・衛生に携わる者が加齢に伴って生じるリスクに対するアセスメントを行うことが求められており、そのためには、(1)方針表明、(2)リスクアセスメント、(3)評価・改善―といったPDCAサイクルを回すことが重要になると指摘。実際に展開された事例やリスクアセスメントに基づいた対策とその効果等についても紹介した。
 その上で、同代表は、参加者に対して、「労働者の声を拾いながら、リスクを見つけて対策を打っていくことは重要な課題であるが、これに加えて、今20・30代の人は将来その当事者となることを自覚し、今のうちに先輩の声を聞き、ぜひ取り組みを一緒に進めて欲しい」と呼び掛けた。

251120i5.jpg 続いて、一瀬豊日産業医需要供給実態調査事業委員会委員より、産業医需要供給実態調査事業に関する報告が行われた。
 同調査については、産業医側と事業者側・労働者側で「供給」の捉え方・考え方に格差があることを踏まえ、企業等が行っているボトルネックの解消方法を明らかにするとともに、産業医、企業、医師会など、おのおのが地域ごとに最適解を検討できる情報・手法を提供することを目的に実施したと説明した。
 その上で大企業では、50人未満の事業場でも同等の健康管理が行われており、グループ会社の設立の沿革等も影響し、グループなど各社で最適解を選択していることが多い一方、中小企業では、労働者の産業保健に対する認知が非常に低く、健康診断の受診率も低かったことが明らかになったことを報告。職場での産業保健活動の認知は労働者のワークエンゲージメントを向上させることにもつながるとして、更なる活動の強化や事業者への説明等に取り組むよう要望した他、需要と供給のバランスを図るため、各組織、地域間で連携するよう呼び掛けた。
 その後、厚労省の佐々木課長並びに土井課長、松岡常任理事、中岡隆志労働者健康安全機構理事、井上真産業医学振興財団事務局長の5名が、埼玉、新潟、山梨の各県医師会から事前に寄せられていた質問に対する回答を述べた他、都道府県医師会との間で活発な質疑応答が行われ、会議は終了となった。

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