この国では社会保障改革が以下の前提で議論されている場合が多い。
それは、「多くの現役世代が一人の高齢者を支えてきた"胴上げ型社会"から、今や三人で一人を支える"騎馬戦型"になり、近い将来、一人が一人を支える"肩車型社会"になる。このままでは現役世代がその負担に耐えられなくなるので、社会保障の伸びを可能な限り抑える必要がある」というものだ。
その結果、医療・介護の自己負担は重くなり、国の社会保障に期待しない若い世代は、せっせと貯蓄に励み、消費は冷え込む。胴上げ型や肩車型は生産年齢人口が高齢者を支えるという前提に基づいている。ここでは、生産年齢人口に分類される人が皆働いているかどうかは問わないし、高齢者は全て支えられると分類している。
しかし、これを分母に就業者人口を置き、非就業者人口を分子にすると全く違う結果となる。権丈善一慶應義塾大学教授著『医療介護の一体改革と財政―再分配政策の政治経済学Ⅵ』によれば、就業者一人が支える非就業者数は1970年が1・04人で2010年は1・05人とこの40年で変化はなく、元気な高齢者が働けば2050年でも1・10人と大差はない。
つまり、働き手を増やすことで超高齢社会は十分乗り切れる。課題は、女性や元気な高齢者が働きやすい環境の整備ではないのだろうか。
胴上げ型から肩車型社会を前提とした社会保障亡国論は虚構であり、こんなものに騙(だま)されてはいけない。
(撥)