医療・介護の現場でBPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)という言葉がよく使われるようになった。認知症に伴う行動・心理症状と理解され、対応に苦慮することが多い。
その内容は、暴言、暴力、妄想、幻視、抑うつ、昼夜逆転、徘徊(はいかい)、異食、不潔行為などさまざまで、複数の症状が併存していることも珍しくない。認知症患者の家族からの担当医への相談も、BPSDに関することが多い。
先日、外来診察時に暴言・暴力など、家族が困っている様子をスマホで録画し、確認して欲しいと見せられたことがあった。「家族がこれだけ困っていることを分かって欲しい」「家族の対応を教えて欲しい」との切実な思いを感じ取った。
画像の提供は、時に夜間の異常行動を詳細に観察することができることでRBD(レム睡眠行動障害)の疑いから、レビー小体型認知症やパーキンソン病の早期の診断に繋(つな)がることもある。
当然、BPSDへの対応は、個々の症状により異なる。尊厳を損なわないように配慮しながら、本人も不安な精神状態であることを理解しての言葉の掛け方の工夫、必要な介護サービスの上手な利用、更に薬物調整などを行うが、なかなか一筋縄にはいかないのが現実である。
日常の認知症診察では、「介護の苦労話をゆっくり聞いて欲しい」「一生懸命、介護していることを分かって欲しい」「介護サービスを利用するのは、決して介護放棄するのではない」などの「家族の思い」を知ることの大切さを肝に銘じて行うように心掛けている。
(榮)