睡眠についての関心が高まっている。成人の30%以上の人が何らかの不眠を自覚しているとのデータもある。睡眠に良いという枕、マットレス、BGMなど、関連商品が次々と販売されている。睡眠薬も診療科目にかかわらず日常的に処方されている。
睡眠は本来個人差が大きく、ナポレオン、エジソンはショートスリーパー、アインシュタインはロングスリーパーであったと聞く。不眠症患者は、実際には眠っているのに、「一週間一睡もしていない」と感じるなど、訴えと実際の睡眠との間に乖離(かいり)があることが少なくない(逆説性不眠症)。本来、人間は眠らないでいることは難しく、11日2時間が最長との不眠記録がある。しかし、この記録は人体に害を及ぼす危険から、ギネスブックには載っていないという。
治療の要否は、疲労、日中の眠気やパフォーマンスの低下などの機能障害の有無がポイントとなる。不眠を考える場合、正しい睡眠の在り方を理解することが重要であり、安易に睡眠薬を使うことは厳に慎まなければならない。定期的な軽い有酸素運動、規則正しい食生活、寝室の明るさ、音、気温、湿度の調節など、正しい睡眠衛生を指導する。
最近、不眠症に対する認知行動療法が注目されている。多くのエビデンスの蓄積があり、特に入眠困難に効果が高いとされている。不眠症を長期化させる生活習慣(行動パターンや睡眠に関する考え方)と身体反応(過覚醒)に焦点を当て修正する。適切な睡眠衛生の啓発は、睡眠薬の処方数を減らすことができ、生活習慣病の治療にも寄与することが期待できる。
(榮)