日医及び全国有床診療所連絡協議会共催の「有床診療所の日」記念講演会が11月19日、一般も含め317名の参加者を集めて、日医会館大講堂で開催された。
冒頭あいさつに立った横倉義武会長は、日本初の有床診療所(以下、有床診)とされる小石川養生所が舞台の映画「赤ひげ」に触れ、基調講演の演者である瀬戸上健二郎先生が第5回「日本医師会 赤ひげ大賞」(日医/産経新聞社主催)を受賞されたこと等を紹介。その上で、「国は、重度な要介護状態となっても、住み慣れた地域で暮らせるよう、医療・介護が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築を進めているが、身近な入院機関としての有床診の役割が極めて重要になる」と指摘し、「一般の方も本日の講演を聞いて理解を深めて欲しい」と述べた。
続いて鹿子生健一全国有床診療所連絡協議会長からあいさつが述べられた。
基調講演
瀬戸上健二郎鹿児島県薩摩川内市下甑手打診療所前所長は、「離島医療39年、Dr.コトーと有床診療所の時代」と題して、昭和53年開業までの半年という約束で赴任した手打診療所での39年にわたる離島医療の現実と、人工透析やCTの導入など、離島・へき地医療の充実・向上に取り組んできた経験や、子どもからお年寄りまで困難な症例の数々を紹介。自身がモデルの漫画『Dr.コトー診療所』については、その経緯等を説明しつつ、"離島医療をテーマに青少年に夢と希望を"という目的は十分に達したのではないかとした。
また、瀬戸上氏は、「医療は信頼で成り立っている」として、信頼関係の構築の重要性を強調した。
熊本地震についてご報告
続いて、松原三郎全国有床診療所連絡協議会常任理事が、熊本地震の被災状況について報告。今後起こり得るリスクとして、①被災者医療費免除終了による外来患者数減少の可能性②借入金の増大③中小企業復興補助金交付の遅れ―を挙げるとともに、復興にはまだ時間がかかるとした。
シンポジウム「地域包括ケアシステムにおける有床診療所の役割」
引き続き、鈴木邦彦常任理事を座長としてシンポジウムが行われた。
(1)「調査から見た有床診療所の現状と課題」では、江口成美日本医師会総合政策研究機構研究部専門部長が、有床診が①30年前と比べ3分の1に減少②地域連携の中で必要に応じて長期入院もあるが、看護職員の確保が困難③入院患者の満足度は高い④医業利益率・経常利益率共に減少し、入院費用が入院収入を上回るなど経営は悪化―等の現状を示し、将来に向けては、人員確保やケアが必要な患者の受け入れ体制等の整備を進めるために、まずは経営基盤の確立が必要とした。
(2)「地域包括ケアシステムにおける有床診療所への期待」では、迫井正深厚生労働省保険局医療課長が、有床診を地域で果たしている役割によって、①主に専門医療を担う有床診療所(産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科)②主に地域医療を担う有床診療所(内科、外科)③双方の機能をもつ有床診療所(整形外科)―に大別。②については、有床診の病床規模では、地域によっては、医療サービスの提供だけで病床稼働率を高く維持することは困難なため、医療・介護の併用モデルへの転換も選択肢として考えられるとして、「有床診療所の地域包括ケアモデル(医療・介護併用モデル)」の具体例の案を示した。
(3)「保険者としての役割と有床診への期待」では、原勝則国民健康保険中央会理事長が、国保保険者の立場から有床診に期待することとして、①質の高い医療サービスの提供②健康づくり・介護予防(フレイル対策)自助への支援③住民主体による支え合い(互助)への支援―という私見が示された。
(4)「地方創生における有床診療所の役割」では、河合雅司産経新聞論説委員が、超高齢社会では、「有床診のあるところに集住」といった発想の転換により、有床診を地方創生の中核に据え、町づくりの拠点にしていくことが人口減少社会に対応していく策との持論を展開した。
(5)「国が求める医療の将来像」では、冨岡勉衆議院議員が、有床診の減少は、あまりに低い入院基本料が原因であると指摘。生き残りの大きな手段として、遠隔病理診断・遠隔画像診断・遠隔相談・在宅医療(テレケア)等の遠隔医療を使いながら、患者満足度の高い有床診を確保するために長期入院に対応した診療報酬体系をつくることが重要だとした。
(6)「日本医師会有床診療所委員会の検討状況について」では、齋藤義郎同委員会委員長が、平成28・29年度有床診療所委員会の答申骨子案を提示。地域の医療提供体制を守っていくためには、医療機関が成り立つような診療報酬の手当てが必要だとして、9項目からなる「委員会としての診療報酬改定要望(案)」を紹介した。
その後、6名のシンポジストと特別ゲストの瀬戸上氏が登壇し、「地域包括ケアシステムにおける有床診療所の役割」についてディスカッションが行われ、中川俊男副会長のあいさつにより閉会した。