見るのは画面ばかり、患者の顔を見ない診察が増えていることに対する危惧が前号のプリズムに掲載された。横倉義武会長に届いた一般の方からの手紙である。
肯(うなず)く医療関係者も多いであろう。最近は受付や病棟の職員までも、画面に向かったまま患者や来客に返事をしている光景を目にする。傍目(はため)にも心地好(ここちよ)いとは言えない。
当院も電子カルテである。導入に際しては医師の負担軽減のため、秘書(医師事務作業補助者)を多数配置した。
診療報酬上の加算はあるが、人件費のかなりの部分が病院の負担となる。しかし、これが奏功した。
秘書達のシステム慣れは予想以上に早く、数カ月で我々のカルテ作業を代行できるようになった。そのお蔭でこちらは相手の顔を見る余裕が出てきた。
暫(しばら)くして、地元の新聞にお褒めの投稿がなされた。医師がパソコンの打ち込みのために、ずっと下を向いたままの診察に疑問を感じていたが、当院に来て顔を見て診察されたことに感激したという。そして、「このような病院が増えることを願っています」と結んであった。
顔を見る医師、見ない医師、患者はよく見ている。
電子カルテはどの製品も完成度が極めて低いが、それでも紙カルテには戻れないというのが実感である。
論文作成でも、カルテやレントゲン写真袋といった"重量物"の運搬が激減した。
他にも便利なツールが増えているが、「顔を見て話す」は、やはり忘れてはならない診療の基本であろう。これだけはAIにはできない。
(骨コツ)