スペインの哲学者オルテガには、近代民主主義とポピュリズムに対する警鐘でもある『大衆の反逆』という名著があります。
1930年に刊行された本書に、「専門家は大衆の原型である」と書かれています。
「なぜなら、近代以降、科学分野を中心に専門化が進行し、自分の専門しか知らない学者が増えている。つまり科学者達が総合的な教養を失っていて、目の前の問題の解をどう明らかにするかということだけを考えて、科学とは何か、人間はそれとどう付き合っていくのかといった根源的なことを考えない、単なる技術屋になっている。そうした単純な″技術屋"達こそが典型的な大衆だ」とオルテガは言います。
実際は、ほんの一部しか知らないのに「俺は何でも知っている」と偉そうな顔をするような人間を彼は嫌悪(けんお)したそうです。
現代社会でオルテガから最も嫌悪される専門家を挙げるなら、経済の専門家と言われる人達ではないでしょうか。限られた条件でしか通用しない経済理論を振りかざし、「規制を緩和して市場に任せればすべて上手(うま)くいく、医療の岩盤規制を打ち砕くことが医療改革である」と言い続けてきた彼らは、医療の現場など知る由もなく、なぜか国の政策に関わり続けています。
オルテガは更に言います。「専門家は間違える」なぜなら「専門しか知らないから」。
(本文は、NHKの番組「100分de名著」で取り上げた『大衆の反逆』を参考にしています)
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