閉じる

令和2年(2020年)3月20日(金) / 日医ニュース

合成の誤謬(ごびゅう)

 企業は私的利益追求のため、リストラをして雇用者の賃金の伸びをできるだけ抑えようとする。こうして企業利益を最大化できた経営者が評価される。
 しかし、雇用者の賃金が伸びなければ消費は増えず、企業の在庫は増え、生産抑制につながる。その結果、総額GDPは縮小し、国の税収も落ち込む。
 個々の企業として、ミクロの視点では合理的で良かれと思われることが、マクロ経済ではマイナスの効果につながる。これを経済学では「合成の誤謬」といい、わが国の経済がデフレから脱却できない理由の一つにも挙げられるそうだ(※)。
 税の投入を減らしたい財務省、保険料負担を減らしたい健康保険組合連合会は、それぞれのミクロの視点で「診療報酬を引き下げよ」と主張する。しかし、診療報酬は診療の単価であり、医療機関の売り上げに直結するので、その引き下げは300万人を超える医療業界と、医療関連業界の賃金を減らし、消費を冷やすこととなる。その結果、総GDPにはマイナス効果となる。
 全世代型社会保障改革の議論が進行中だが、国や企業の負担軽減にのみ視点を置く政策では「合成の誤謬」に陥り、全体の経済にはマイナスに作用することを認識してもらいたいものだ。
 ところで、診療報酬という言葉は、医師の報酬であるとの誤解を招きやすい。これを診療単価に変更できないものだろうか。

(撥)

※参考:権丈善一慶應義塾大学教授著「医療介護の一体改革と財政:再分配政策の政治経済学Ⅵ」

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる