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令和2年(2020年)4月20日(月) / 南から北から / 日医ニュース

始めて?のカレーづくり

 ある休日、妻は会食に出かけて不在。娘も仕事が遅くなる日で、私が夕食を作ることになった。
 「パパ、独身長かったんだから、カレーくらいつくれるよね。お願いね」。言い方が気に入らないが、二つ返事で引き受けた。昼食を終えるとそそくさと買い物に出掛けた。材料の他に、保険として、そのスーパーで一番高い即席カレールーを買った。
 さて準備に取り掛かろうとして考えた。俺が最後にカレーをつくったのはいつだったんだろう? あれ? 中学生の......キャンプ? 以後、つくってなかった? その時、気がついた。そうだ、即席ルーの箱の裏につくり方が書いてある。
 少し大きめに材料を切りそろえた後、肉、野菜と丁寧に炒める。水を加えてあくを取りながら煮込む。あとはルーを入れて完成。順調だ。時間はたっぷりある。
 その時、悪魔が私にささやいた。「『私の一工夫』をやってみようか」。
 カレー初心者が何考えてるんだ!という良心の声も遠く、私はこれまで見聞きしたいろいろな「私の一工夫」を思い浮かべながら、憑(つ)かれたように冷蔵庫の扉に手を伸ばした。
 チーズをちぎって入れる。赤ワインも投入。ソースっていうのもあったな。ドバドバと入れて気がつく。あれは出来たカレーにかける派か、否かという話だった......入れちゃったよ......。その他にもいろいろと入れては味見を繰り返した。
 ふと気がつくと、日はとっぷりと暮れて午後6時も回ろうとしていた。そこで初めて自分のしている事の愚かさに気づいた。味見をし過ぎて舌もバカになっている。明日の昼には妻も食べると言っていた。それより最初の難関は娘だ。
 狼狽する中、娘が帰って来た。いつでもコンビニに走れるように財布をポケットに入れて、冷静を装い皿に盛って差し出す。「どう? 味は?」「ふつう......」「え? 普通なの?」「え? 何、何?」「ひ、久々だからさ」。
 自分も皿によそって食べてみる。ほんとだ、普通の味だ。ちょっと、後味がクドい気もするが。いや、何でもない。
 こんなずさんな調理でもちゃんと味を保っている懐の深さ。私はカレーの神に感謝した。

新潟県 新潟市医師会報 No.583より

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