医師会将来ビジョン委員会(委員長:佐原博之石川県医師会理事)は、諮問「『Society 5.0』における医師会」に対する答申を取りまとめ、5月19日、小玉弘之常任理事を通じて横倉義武会長に提出した。
本委員会は、将来の医療を担う医師会員に、将来の医師会活動や我が国のあるべき医療制度の姿などを自由闊達に議論してもらうために設置されたもので、全国の医師会から推薦を受けた先生方を中心に、主に40歳台の委員から構成されている。
そのため、本答申は、日医の立場に捉われることのない自由な発想のもとで取りまとめられたものとなっている。
以下、答申の概要を紹介する。
はじめに
Society 5.0とは人類が迎える5番目の社会を意味し、Society 1.0は狩猟社会、 2.0は農耕社会、3.0は工業社会、そして、現在はSociety 4.0情報社会である。Society 5.0では、AI(Artificial Intelligence:人工知能)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)などの革新技術によって、社会や人の生活が根本的に変わる可能性があるとされている。Society 5.0において医師会はどう在るべきか、という諮問に対して同委員会は、次のように答えている。
Society 5.0において、医師会は「不易流行」の覚悟で行動すべきである。
すなわち、「不易」を貫く信念と、「流行」を受け入れる勇気を持つ、「覚悟」が必要である。
Society 5.0において、医療の在り方や医師の役割も変化していくだろう。病気や生命の概念そのものが一変するかもしれない。本答申は、医師会が「国民の生命と健康を守る」という大義を果たし、「社会的共通資本としての医療」を守り続けるための「『Society 5.0』における医師会」の在り方を取りまとめたものである。
第1章では、「Society 5.0とSDGs・UHC、そして社会的共通資本」について述べられている。
政府は、Society 5.0を「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより経済的発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会」と定義し、Society 5.0を進めることでSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)を達成する「Society 5.0 for SDGs」を掲げている。
社会的共通資本は、世界的な経済学者であった宇沢弘文先生が唱えた理論で、「一つの国ないし特定の地域に住むすべての人々が、ゆたかな経済生活を営み、優れた文化を展開し、人間的に魅力ある社会を持続的、安定的に維持することを可能にするような社会的装置」と定義される。社会的共通資本は、たとえ私有が認められるものであっても社会全体にとっての共通の財産として社会的な基準に従って管理、運営すべきである。利潤を目的とした市場原理の対象とせず市場原理から切り離して管理すべきであり、また、国家の統治機構の一部として官僚的に管理されてはならない。職業的専門家集団によって、専門的知見に基づき、職業的規律に従って管理・維持されなければならない。ただし、その前提として専門家集団には高い学問的知見と倫理性が求められる。
社会的共通資本とSDGsはその礎において共通した理念を持っており、Society 5.0が目指す「人間中心の社会」はその延長線上にある。そして、それは医師会が目指すべき未来と同じベクトルである。日本が国を挙げてSociety 5.0 for SDGsを目指すというのであれば、積極的に歩調を合わせ、さらにリードしていくことが、Society 5.0における医師会の役割であると考えるとしている。
第2章「Society 5.0における医療分野でのAI」では、ディープラーニングで本格的に社会実装されつつあるAIについて解説し、医療分野のAIの活用の実例としてゲノム医療や画像診断支援、日常診療支援、医薬品開発、介護領域の活用、手術支援、外国人医療など様々な場面の課題について考察されている。さらに、システムとしてのAIを病院へ実装する実証事業「AIホスピタル」を紹介するとともに、AIは、医療レベルの向上につながるだけではなく、医療安全対策や医師の働き方改革等に不可欠なものになるだろうとした。
第3章では、「Society 5.0における医療情報の在り方」として、日医IT化宣言と、現在進められているPHR(Personal Health Record)・EHR(Electronic Health Record)と地域医療連携ネットワークの現状と課題、次世代医療基盤法に基づくデータベースの利活用、医療分野のセキュリティ対策について解説されている。日常診療での診療情報共有から、国家戦略としての診療情報の活用まで、Society 5.0においては医療情報をいかに安全で効率的に活用するのかが大きなテーマとなるとした。
第4章の「Society 5.0におけるオンライン診療」では、オンライン診療の現状と課題について考察されている。Society 5.0においても医療の基本は対面診療であることは「不易」であるが、オンライン診療には大きな可能性もある。だからこそ、拙速な導入をすべきではなく、様々な視点から議論を尽くす必要があり、オンライン診療も社会的共通資本として、適切な管理が必要であるとした。
第5章では、「Society 5.0における『かかりつけ医』と、全世代型教育の在り方」というテーマで、現在とこれからの「かかりつけ医」の意義と役割について述べられている。人生100年時代に向けて、すべての国民とすべての医師が理念を共有するために、教育の重要性が主張されている。
第6章は、本委員会からの提言を「Society 5.0に向けての医師会将来ビジョン」としてまとめたものである。
具体的には、次の7つの提言がなされている。
- 医療分野のイノベーションの推進:医師会は、Society 5.0におけるイノベーションのエンジンとして、医療界をリードすることが求められる。
- 全医師の全保険診療実績の把握:レセプトデータとAIを活用して、新しいエビデンスを積み重ねて、真に適正な医療を提供するとともに、医師の偏在対策等への具体的な政策を進め、アウトカムが評価できるシステムが必要であろう。
- 専門医の偏在対策:専門的な技術と知識を持つ医師をきちんと評価して、さらに地域における専門医の適切な配置ができるよう、特定専門医制度(仮称)を提案した。
- 「かかりつけ医」の適正配置:都市部でリタイアした勤務医が、地方で「かかりつけ医」として活躍できる道筋を用意することも医師会の重要な役割である。
- 誰一人取り残さないためのオンライン診療:僻地などに住む高齢者のために、身近な施設に専門の看護師が立ち会って行うオンライン診療「D to P with N in郵便局等」を提案した。
- 真の意味での医療費の適正化:経済に医療を合わせるのではなく、AIやIoTを使って国民にとって真に適正な医療費を算出し、医療に経済を合わせる仕組みが必要だと考える。
- 医師会将来ビジョン委員会の将来ビジョン:私たちは本委員会を通じて多くのことを学ばせていただいた。本委員会がさらに発展し、医師会全体を活性化するための将来ビジョンを提案した。
第7章は、「Society 5.0における医師会」の総括であり、「Society 5.0の時代の医療と医師会をデザインするのは、『今』を生きている私たちの責務である」とした。
本答申は、総論と各論から構成されている。各論は議論のたたき台としてそれぞれの委員の意見が、原文のまま掲載されている。総論は各論と委員会でのディスカッション等をもとに、委員会の総意として取りまとめられたものである。各論についても、是非ご参照いただきたい。
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