大規模災害の後に一時的な現象として発生する理想郷的コミュニティーを「災害ユートピア」と呼ぶ。これはアメリカ合衆国の著作家、レベッカ・ソルニットが提唱した概念だ。
多数の犠牲者を出し、一部地域に集中した悲劇を目の当たりにした社会では、人々の善意が呼び覚まされて一種の精神的高揚となって理想郷が出現するという。
1665年ペスト流行下のロンドンに留まった一市民の著作として出版された、ダニエル・デフォーの『ペストの記憶』における災害の極限状態において出現した、平時ではあり得ないような善良な状態もこの一例と考えられる。
そこでは、キリスト教派閥対立が一時的に解消、貧困に苦しむ人々を支援するため多くの金銭が惜しみなく市長や各区長に寄付され、また、生活困窮者に対して慈善家は個人的に多くの金銭的、人的な救済活動を行った。
ペストの大流行で、ロンドンの人口約46万人のうち約7万人の市民が亡くなり、同時に失職者も増えた。このまま続けばロンドンの町自体が崩壊するところだったが、そういった失職者に対する多くの義援金が集まり、それを分配することでロンドンは持ちこたえたとされている。
その意味では現在の新型コロナウイルスパンデミック下の日本は、防護具、義援金、激励など多くの善意が満ちていて、災害ユートピアと言えるかも知れない。
医師会にも多くの激励や寄付が届きありがたいいことだが、これらを有効に感染症対策に還元する緻密(ちみつ)な方策が必要である。
(フェランド)