2年後の2024年4月に、診療報酬、介護報酬、障害福祉サービス等報酬が同時に改定されるいわゆるトリプル改定が行われます。
2020年の政府一般会計は約102兆7000億円で、その中で社会保障関係費は約35兆9000億円(一般会計比34・9%)と最も大きいため、財務省は社会保障関係費の増加を抑制しようとしています。
社会保障費用は年金(社会保障関係費のうち34・8%)、医療(同34・0%)、介護(同9・5%)、少子化対策・社会福祉などその他福祉(同21・7%)に分けられますが、年金は削減が難しく、介護は高齢者が増加しているため抑制は困難です。そのため、医療(すなわち診療報酬)をいかに削減するかということが財政再建をすべきと主張する人達の大きなテーマとなっています。
財政再建が政府や学者、財界で主流派になり20年以上が経ちます。いわゆる「プライマリーバランス(PB)黒字化」論です。
一方、この数年PB黒字化は目的ではなく、経済成長が目的であり、PBを黒字化させるべき時とPBを赤字化させるべき時があるという意見も増えてきました。
このような意見対立を背景として、自民党の中には財政についての二つのグループがあります。一つ目はPB黒字化堅持を提言している「財政健全化推進本部(額賀福志郎本部長)」で、二つ目は積極的な財政政策を主張する「財政政策検討本部(西田昌司本部長)」です。
常にPB黒字化が目標であれば、一般会計を増やすことはできず、結果として診療報酬を上げることも困難です。小泉内閣から続く診療報酬削減政策、追い打ちをかけるようにコロナ禍が2年半以上も続き、医療機関の経営状況は悪化しています。一定の利益率を回復させるためには、診療報酬を上げるしかありません。診療報酬を上げるには、需要が拡大する「ディマンドプル型インフレ」が数年間続くまでPB黒字化を当面棚上げにするか、デフレ下で一般予算が増えない中、政治力を使って診療報酬を上げるかしかない、と言うことになります。後者は莫大な政治力が必要となります。
私は「財政政策検討本部」が言うように、景気が回復するまで積極的に財政を出し、民間にお金を循環させることが日本の景気を回復させるには必要だと思っています。景気回復とともに診療報酬を上げることを目指すべきと考えます。
インフレにはディマンドプル型インフレとコストプッシュ型インフレがあります。
国内需要が高まって起きるインフレはディマンドプル型で、国民所得も増えていきます。昭和30~60年代はこのディマンドプル型でした。
それに対して、モノの値段(エネルギーや原材料などの輸入品)が上がり、インフレになるのがコストプッシュ型で、オイルショックの際のインフレはこの型でした。
この数カ月のインフレは、ウクライナ情勢による輸入品価格の上昇が強いため、コストプッシュ型です。コストプッシュ型では、価格の上昇分は海外に行きやすく、国民所得の増加にはつながりません。
この2種類のインフレは明確に分けて考える必要があり、その対策も大きく違ったものになります。
(日医総研副所長 原祐一)