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令和4年(2022年)9月5日(月) / 日医ニュース

かかりつけ医機能の更なる充実・向上に向けて

 「日医かかりつけ医機能研修制度 令和4年度応用研修会」(第1回)が8月7日、「日本医師会Web研修システム」を用いて開催された。
 本研修会は、今後の更なる少子高齢化社会の進行を見据え、地域住民から信頼される「かかりつけ医機能」のあるべき姿を評価し、その能力を維持・向上させることを目的として、平成28年4月に創設したものである。
 当日は、同システムを利用して1583名が受講。開会あいさつで松本吉郎会長は、「参加者の皆様の新型コロナ対応への協力によって、現在に至るまでしっかりと患者さんを守ることができている」と強調。「"国民の健康と生命を守る"という医師の使命を果たすべくご尽力頂いている先生方に対して、日本医師会を代表して多大なる敬意を表すとともに、心より感謝申し上げる」と述べるとともに、今後も最新の知見を学習する機会を提供し、かかりつけ医機能をより発揮しやすいような形を整えるために全力を尽くす決意を示した。
 続いて、6題の講義が行われた。
 講義1「かかりつけ医の感染対策」では、高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科副部長が「新型コロナウイルス感染症の感染対策と診療」と題して、新型コロナウイルスの①病原性②感染対策③診断④治療―を解説。風邪症状の高齢者への対応について、「(体温調節のサポートなど)基本的なケアの部分が、コロナ禍というだけで抜け落ちている場合がある」と留意を求め、家族や介護職員へのアドバイスのポイントを紹介した。
 釜萢敏常任理事は「診療所における感染症対策」と題して、①医療機関全般の感染対策②診療所の場合の特徴③新興感染症等に対応できる医療提供体制の構築に向けた評価④有事の際の対応、かかりつけ医としての常日頃からの心構え―を解説。「かかりつけの患者さんが感染した場合に対応できるよう、積極的に体制の構築を図っておくことが必要」とするとともに、有事の際にはこれまでに診たことのない患者の受診も増える可能性があるとして、「それらの患者さんに対してもかかりつけの患者さんと同様の対応をお願いしたい」とした。
 講義2「フレイル予防・対策」では、鳥羽研二東京都健康長寿医療センター理事長が「フレイルを支える医療への期待」と題して、フレイルについて概説した上で、①診断基準②健診や診療上の課題③フレイル予防―等について解説。③では、「フレイル予防は未来投資である」と述べた上で、国に対して、「予防を含んだ新しい地域包括ケア」を提唱するよう求めるとともに、医師会もタイアップしながら築き上げていく必要性を強調した。
 飯島勝矢東京大学高齢社会総合研究機構長/未来ビジョン研究センター教授は「地域におけるフレイル予防とかかりつけ医の役割」と題して、①負の連鎖「フレイル・サイクル」から考える多職種連携②多様な地域の社会資源をどのような場所に、どうつなげるか③フレイル予防・対策のための「三つの柱」―等を解説。③では「栄養」「身体活動」「社会参加」を三つの柱として挙げ、今後はその全てを満遍なく底上げすることが求められるとした。
 講義3「地域リハビリテーション」では、浜村明徳小倉リハビリテーション病院名誉院長が「地域包括ケアを支える地域リハビリテーション」と題して、①地域包括ケアと地域リハビリテーションの概念②在宅生活を支える生活期リハビリテーションの考え方と実際③地域連携④地域リハビリテーション推進体制とその活動―について解説。まとめでは、リハビリテーションは単なる機能回復訓練ではなく、日常生活の活動を高め、家庭や社会への参加を可能にし、その自立を促すものとした上で、「かかりつけ医が診ている患者さんが、元気に自分らしく自立して生活するための支援の一つに『地域リハビリテーション』を加えて欲しい」と述べた。
 講義4「かかりつけ医と精神科専門医との連携」では、長瀬幸弘高月病院長が、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの概要や、令和4年度診療報酬改定で新設されたかかりつけ医と精神科・心療内科の連携を評価する「こころの連携指導料」と、自殺の原因となるうつや不安症の総論を解説。かかりつけ医を受診する精神疾患患者も多いとして、メンタル疾患の問診のポイントとともに、産業医と精神科医が連携して対応した事例を紹介した。
 来住由樹岡山県精神科医療センター院長は、健康被害要因の中で精神疾患が増加していることや、障害調整生命年(DALY)の指標では先進国において精神疾患がトップを示していること等を説明。その他、「精神科救急事態」「周産期」「アルコール依存症」や産業医・職場との連携に関する事例を紹介し、かかりつけ医と精神科医との連携を求めるとともに、在宅医療と精神科医療の連携には、障害福祉サービスも含まれるとして、多職種との連携の必要性を強調した。
 講義5「オンライン診療のあり方」では、今村聡医療法人社団聡伸会今村医院理事長・院長が「かかりつけ医のためのオンライン診療のあり方」と題して、オンライン診療について、「医師・患者間において情報通信機器を利用してリアルタイムで診療行為を行う」と定義されていることや、安全性・必要性を確保し、適切なオンライン診療を行うために取りまとめられた「オンライン診療の適切な実施に関する指針」は保険診療、自由診療共に対象としているとして、その内容を概説。その他、新型コロナウイルス感染症の感染拡大に際して発出された時限的特例的な取り扱いの事務連絡や、令和4年度診療報酬改定によるオンライン診療の評価にも触れ、初診からのオンライン診療は「かかりつけの医師」による実施が原則であるとした。
 また、日本医師会作成の『オンライン診療入門~導入の手引き~』を紹介した上で、「地域医療を維持するためには、かかりつけの医師によるオンライン診療の普及が必要になる」とした上で、治療の手段の一つとしてオンライン診療を適切に活用するよう求めた。
 講義6「新型コロナウイルス感染症とかかりつけ医~事例検討を通して~」では、大橋博樹多摩ファミリークリニック院長と清水政克清水メディカルクリニック理事長・副院長が、コロナ禍における多職種連携や地域包括ケアシステムの重要性とともに、在宅医療や地域連携におけるかかりつけ医を始めとする各職種の役割等について、三つの症例を紹介。かかりつけ医は、新型コロナウイルス感染症患者への対応において介護・福祉等の視点が求められると指摘するとともに、地域においては保健所や行政との連携ばかりでなく、地域包括ケアシステムにおける多職種連携を更に強化していく必要があるとした。
 最後に、担当の江澤和彦常任理事が閉会のあいさつを行い、長時間にわたる本研修会への参加に謝意を示した。
 なお、日本医師会では本研修会を同様の内容で9月18日、10月30日にも開催する予定としている。

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