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令和5年(2023年)3月5日(日) / 南から北から / 日医ニュース

モーニングルーチン

 毎朝車で通勤していると、いつも窓越しに見る中年男性の歩行者がいる。濃い顔立ちで、背も高い。ただしかなり恰幅(かっぷく)が良い。言い換えれば肥満体である。恐らくサラリーマンだろう。いつも背広やワイシャツ姿で、ベルトは深くお腹に食い込み、少し左足を引きずるように斜めになって、その息遣いが聞こえそうな必死の形相で歩いている。私は車の中から一瞬すれ違うだけなのだが、ほぼ毎朝出くわすことに気付いてから彼のことが気になってきた。
 私が少し遅く出た日には、かなり手前の場所で彼とすれ違う。早く出た日は、バス停三つ分くらい先で出会うこともある。すれ違う場所から推定すると少なくともバス停五つ以上は歩いている。
 勝手な想像であるが、きっと彼は特定健診などで肥満を指摘され、歩くように指導されたに違いない。そして朝の出勤時に歩くことを決めたのだろう。実際ここ半年程で彼のウエストは明らかに細くなった。まだズボンのべルトはお腹に食い込んでいるけれど、以前に比べると足取りは軽やかになり、顔付きから険しさが消え、自信に満ちた笑顔の日すらある。逆に彼を見掛けない朝は心配になる。脳梗塞で倒れたか、膝を痛めた、あるいはコロナに感染した? 次の日また彼を見掛けると安心する。
 彼は私にとってモーニングルーチンになった。全く余計なお世話であるが、彼のウエストがどこまでスマートになるのか、毎朝彼の歩きに勇気付けられている。

福岡県 福岡市医報 NO.685より

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