松本吉郎会長は5月10日、堀憲郎日本歯科医師会長、山本信夫日本薬剤師会長と共に日本医師会館で記者会見を行い、医科・歯科・調剤分野における物価高騰対策や、医療・介護従事者の賃上げのため、更なる政府の財政措置を要望する合同声明を三師会で取りまとめたことを公表した。 |
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松本会長はまず、4月28日に日本医師会が自由民主党政務調査会に対して、四病院団体協議会、全国医学部長病院長会議と連名で、医療分野における物価・賃金高騰対策に関する要望書を提出したことを報告した。
その上で合同声明の趣旨については、現在、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻等の影響による世界的なエネルギー価格並びに、人件費の上昇を始めとする急激な価格高騰の状況にあるにもかかわらず、公定価格により運営する医科歯科医療機関、薬局、介護施設等は、価格に転嫁することができないため、物価高騰と賃上げに対応するには十分な原資が必要であることを説明。
更に、インフレ率を超える賃上げの実現という政府の方針に沿うためには、労働力人口の約12%(約800万人)を占める医療・介護従事者の賃上げも喫緊の課題であるが、診療報酬・介護報酬という公定価格で運営を行っている医科歯科医療機関、薬局、介護施設等においては、昨今の物価高騰も相まって賃上げに対応できない状況となっていることを強調。政府に対しては、令和5年度における緊急的な措置や、令和6年度のトリプル改定で物価高騰と賃上げへの対応を「骨太の方針」に記載するなどの財政措置を、強く求めたいとした。
堀日歯会長は、「個人立の小規模な診療所が75%を占める歯科において、昨今の物価高騰の影響は大きい」と述べ、令和4年4~6月の内部調査においても水道光熱費が前年度に比べ11・6%増加していたことを報告。加えてコロナ禍以降、歯科材料費や消耗品費など総支出も増えたとし、新型コロナウイルス感染症の類型の変更に伴い感染防止対策を緩和できるわけではないことを指摘した。
山本日薬会長は、「新型コロナウイルス感染症のパンデミックの影響を受け、日本薬剤師会の調査では95%に及ぶ薬局が厳しい経営状況を余儀なくされている」と主張。
また、調剤報酬の75%を占める薬価が毎年改定されていることから、資産価値の減少も加わり、公定価格の下で運営している薬局における物価や賃金の高騰の影響は甚大で、薬局経営が危機的な状況であることを訴え、本声明への理解を求めた。
その後の記者との質疑の中で、医師の賃上げについて問われた松本会長は、「医師の人件費のみ引き上げれば良いという問題ではなく、医療従事者全体の課題である」との認識を示し、令和5年度に関しては補助金・助成金での対応が、令和6年度に関しては診療報酬改定における根本的な対策がなされるよう、今後の議論に臨んでいくとした。
国民医療推進協議会総会を開催へ
物価高騰の影響に関しては、自民党内でも問題視され、同党の社会保障制度調査会(会長:田村憲久衆議院議員)は調査会としての提言「医療・介護・障害福祉分野における物価高騰・賃金上昇への対応について」を取りまとめ、5月11日に萩生田光一政務調査会長に提出した。
提言の中では、(1)令和6年度の診療報酬・介護報酬・障害福祉サービス等報酬改定については、大幅な引き上げを行うこと。その上で、今後も予想される物価高騰・賃金上昇の局面においては、従来の2~3年の改定サイクルにとらわれずに弾力的・機動的な改定を行うこと。また、薬価改定についても、既述の課題の解消に向けた十分な対応を行う、(2)来年度以降の社会保障関係費の伸びについては、高齢化の伸びとは別に、物価高騰・賃金上昇への対応が行われるようにする、(3)更に、物価高騰・賃金上昇に対する政府の全体的な取り組みの中で、医療・介護・障害福祉分野に対して本年度においても機動的な財政支援を隅々まで行き渡るように行う、(4)「社会保障の充実」については、消費税収が大幅に増加している状況を踏まえ、その増収分も活用した措置を行うことを検討する―ことの4点について、党内で十分な議論を尽くし、政府に実現を求めるべきとしている。
なお、日本医師会では医療・介護等における物価高騰・賃金上昇について協議を行うため、国民医療推進協議会総会を5月31日に開催することを決定した(本紙6月20日号で詳報予定)。
医科・歯科・調剤分野における物価・賃金高騰対策に関する三師会合同声明
令和5年5月10日
政府におかれましては、今般、「第8回物価・賃金・生活総合対策本部」において、物価高騰に対する追加策として、「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」の積み増しをお示し頂き、更に価格高騰への対応に効果的と考えられる推奨事業メニューとして、引き続き「医療・介護・保育施設、学校施設、公衆浴場等に対する物価高騰対策支援」を推奨頂きましたことを併せて御礼申し上げます。現在、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻等による世界的なエネルギー価格の高騰や、それと相まって人件費の上昇をはじめとする急激な価格高騰の状況にあります。しかしながら、公定価格により運営する医科歯科医療機関、薬局、介護施設等は、価格に転嫁することができず、物価高騰と賃上げへの対応には十分な原資が必要です。 岸田総理から本年1月4日の年頭記者会見、1月24日に開催されました「第6回物価・賃金・生活総合対策本部」において、春闘では「インフレ率を超える賃上げの実現をお願いしたい」等のご発言がありました。 全国における医療・介護従事者は、労働力人口6,900万人の約12%に当たる、約800万人おります。今般の政府のご方針に沿うためには、喫緊に医療・介護従事者の賃上げを実現することが重要です。 一方、多くの介護施設においても、コロナ禍および物価高騰の影響によって経営上の収支が悪化し、更に元々不足している介護従事者が、比較的賃金の高い他産業へ流出してしまうことが増えており、これらにより施設の維持に支障、困難を来す状況となっております。 診療報酬・介護報酬という公定価格で運営を行っている医科歯科医療機関、薬局、介護施設等においては、昨今の物価高騰も相まって、岸田総理がご発言された賃上げに対応できない状況となっています。 つきましては、これら医科歯科医療機関、薬局、介護施設等を取り巻く事情をご賢察頂きまして、医療・介護従事者の賃上げに対応するため、令和5年度における緊急的な措置や、令和6年度のトリプル改定で物価高騰と賃上げへの対応を「骨太の方針」に記載するなど、政府において何らかの財政措置を強くお願いいたします。 公益社団法人 日本医師会 会長 松本 吉郎
公益社団法人 日本歯科医師会 会長 堀 憲郎 公益社団法人 日本薬剤師会 会長 山本 信夫 |