第44回産業保健活動推進全国会議が10月19日、日本医師会館小講堂で、WEB会議システムを用いてハイブリッド形式で開催された。
開会に先立ち、武見敬三厚生労働大臣、松本吉郎会長、有賀徹労働者健康安全機構理事長、清水英佑産業医学振興財団理事長があいさつを行った。
松本会長は、まず、先般の日本医師会認定産業医制度における単位シールの転売問題について、「認定産業医制度の根幹を揺るがすものであり、断じて容認できない」と強調。再発防止に向けて、都道府県医師会に対しては、記名式または整理番号入りの単位シールを発行するよう求めている他、日本医師会としても、受講情報のデジタル化に向けた取り組みの推進、質の高い研修の確保や受講機会の提供に向けた議論を行っていく意向を示した。
また、化学物質の自律的管理については、基本的に事業場に求められる対応であるが、事業場から産業医に求められる業務もあることを踏まえ、今年度の全国会議では、シンポジウムとして化学物質の自律的管理を取り入れた他、産業医需要供給実態調査事業に関する報告も行われることに触れ、その成果が産業保健の推進につながることに期待感を示した。
活動事例報告では、中岡隆志労働者健康安全機構理事の司会の下、(1)事業場と産業医のマッチング事業に係る取組について(尾池千賀子熊本産業保健総合支援センター産業保健専門職)、(2)「かかりつけ医意見書」で患者・会社・地域経済「三方よし」の両立支援へ(長澤孝子滋賀産業保健総合支援センター産業保健専門職)、(3)静岡さんぽの両立支援―静岡県におけるキーパーソンを見出す―(奥柿智子静岡産業保健総合支援センター産業保健専門職)、(4)行動災害(転倒・腰痛災害)防止と健康起因事故防止に向けた神奈川産業保健総合支援センターの活動事例(赤前幸隆神奈川産業保健総合支援センター副所長)―の取り組みの紹介が行われた。
続いて、神村裕子常任理事の司会の下、「化学物質の自律的管理における産業医に必要な知識」をテーマとしたシンポジウムが行われた。
安井省侍郎厚労省労働基準局安全衛生部化学物質対策課長は、「化学物質の自律的管理の基礎」と題して、2023年4月より一部施行された新たな化学物質規制の内容について詳述。今回施行された13項目の他、2024年4月から施行される10項目について説明するとともに、化学物質管理に関する相談窓口や専門家による訪問支援なども行っていることを紹介した。
松岡輝昌厚労省労働基準局安全衛生部労働衛生課長は、「リスクアセスメント対象物健康診断ガイドライン」と題して、新しい化学物質管理における健康管理の仕組み等について概説。本ガイドラインには、健康診断の要否の判断基準、検査項目の選定方法等がまとめられているとして、その活用を呼び掛けた。
山本健也労働安全衛生総合研究所化学物質情報管理研究センター化学物質情報管理部長は、「産業医が対応すべき事例」と題して、「リスクアセスメント対象物健康診断の項目の設定」「職場の化学物質管理への支援」など五つの事例について概説。その上で、産業医の役割は、「リスクアセスメントの実務者」ではなく「自律的な管理」ができるように職場へ助言・指導する立場であると強調した。
中岡隆志労働者健康安全機構理事は、「外部相談・支援窓口について」と題して、厚労省からの要請を受けて、同機構で化学物質の自律的管理に関する相談・支援を開始したことを報告。具体的には、専門的研修、事業者の希望に応じた個別訪問支援、専門的相談を実施しているとした他、リスクアセスメント対象物健康診断に関する相談体制については、厚労省と調整の上、改めて案内するとした。
続いて、一瀬豊日産業医科大学進路指導副部長から、産業医需要供給実態調査事業委員会が行った産業医需要供給実態調査と、ボトルネック改善調査小委員会が行ったボトルネック解消事業の結果等について報告がなされた。
「産業医不足」の言葉が指す意味の混在や産業医に関する情報格差などの課題がある他、地域や組織によって解決すべきボトルネックも異なることが明らかになったとして、現在、各地域や都道府県でどんな取り組みを行えば、より効果的にボトルネックを解消できるのかといった方法が分かるような報告書を準備していると述べた。
その後、相澤好治日本医師会産業保健委員会委員長を司会に、松岡厚労省労働衛生課長、神村常任理事、中岡労働者健康安全機構理事、井上真産業医学振興財団事務局長の4氏が、富山県医師会から事前に寄せられた質問に対する回答を述べた他、都道府県医師会との間で協議が行われた。
単位シール出品問題の対応策を説明 ―神村常任理事
神村常任理事は、富山県医師会から寄せられた「産業医研修単位シールの出品問題に対する日本医師会の今後の対応、予防策について」の質問に対して、まず、本件の問題が発生したことを陳謝した上で、問題の経緯を説明。再発防止策については、(1)番号等が入った単位シールを作成(記名整理番号用紙との交換または、座席指定方式等)、(2)受講者氏名が入った単位シールを作成、(3)手帳に直接押印―のいずれかの方法を行うよう都道府県医師会に依頼していることを報告した。
また、認定産業医の手引きの中に、認定取り消しに関する記載を追記する他、「今後は、研修会の予約や受講管理・単位管理が可能なデジタルシステムの構築を進めていく」として、引き続きの理解と協力を求めた。