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令和6年(2024年)2月20日(火) / 日医ニュース

三十三間堂の裏通り

 昨年の10月に京都を旅した。帰りの時刻までには少し時間があったので、駅前のホテルから歩いて行ける三十三間堂に向かった。10月中旬にしては気温が高く、歩こうとしたことを後悔していた。妻と2人でやっと塩小路通から太閤塀と呼ばれる三十三間堂の裏通りに到達したところ、人だかりが目に入った。
 近寄ってみると老人が倒れていて、その周りに旅行者らしい3人の若い女性が集まっている。駆け寄り、「大丈夫おばあさん、どこが痛い? 転んだの? 頭は打っていない? 年はいくつ? 手足は動く? 家はどこ? 家族はいるの?」矢継ぎ早の私の質問に全て回答できたので、ひと安心。「私は医者だからね」と、3人の娘さんと倒れているおばあさんに告げながら、救急車の手配が済んでいることを確認し、頭から足までを触診した。
 皆に手伝ってもらい安全な場所に体を移動させた時に、おばあさんが腰が痛いと悲鳴を上げた。不安そうな3人に「大丈夫だよ、後は救急車の到着を待つだけだね」と、皆を落ち着かせた。
 ところが、サイレンは聞こえてくるがなかなか到着しない。1人が「私が場所を間違えて伝えたかしら?」と言うなり東の方角に勢いよく走り出し、南大門から出てきた救急車を誘導して来た。おばあさんはストレッチャーに乗せられ病院に向かったので、妻と私は本堂の入口を目指して歩き始めた。背後から「ありがとうございました」と3人の声が聞こえた。
 お礼を言われるなんて意外だった。「良い娘さん達ね。日本の未来は明るいかもね」と妻がそっとささやいた。
 その後参拝した三十三間堂の1001体の観音像の顔が、先程の娘さん達と重なって見えた。温かい心に触れられた良い旅になった。

(がんこ親父)

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