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令和6年(2024年)9月5日(木) / 日医ニュース

今後の大規模災害に備え より強固なJMAT活動を目指して

今後の大規模災害に備え より強固なJMAT活動を目指して

今後の大規模災害に備え より強固なJMAT活動を目指して

 令和6年能登半島地震JMAT活動報告会が8月9日、都道府県医師会JMAT担当理事連絡協議会を兼ねて日本医師会館小講堂とWEB会議のハイブリッド形式で開催され、今後の大規模災害に備え、今回の災害対応を検証して日本医師会災害医療チーム(以下、JMAT)の活動をより強固かつ効率的なものにすべく議論が行われた。

 細川秀一常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで松本吉郎会長は、7月24、25の両日に能登半島を改めて訪問したことに言及。「発災から7カ月以上経つが、まだまだ復興途上であることを実感した」とし、引き続き日本医師会として可能な限りの支援を行っていくとの考えを示すとともに、今後の体制づくりのための活発な議論を求めた。
 また、8月8日に宮崎県日向灘を震源とする地震が発生したことに伴い、気象庁から「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が発表されたことを受けて、日本医師会では災害対策基本法上の指定公共機関として、会内に地震警戒本部を設置したことなどを公表した(8月15日に本部を廃止し、所定の措置を終了)。
 次にあいさつした安田健二石川県医師会長は、JMAT派遣等への支援に謝辞を述べた上で、現状の能登半島の人口、患者数、診療所の復旧状況等について報告。復旧・復興はまだ先になるとの見方を示し、「本日は忌憚(きたん)のない意見を頂きたい」と述べた。
 続いてあいさつした中田勝己厚生労働省医政局地域医療計画課長は、政府全体の会議において、能登半島地震における災害関連死が過去の災害と比較して非常に少なかったことに触れ、医療関係者の貢献に感謝の意を示した。厚労省としても研究班を立ち上げ、能登半島地震の教訓を今後の対応に生かすべく検討を進めていくとして、その支援を求めた。
 引き続き、日本医師会からの報告として、細川常任理事が令和6年能登半島地震におけるJMAT派遣の流れや今回の活動の特色等を説明。次の災害に向けて、日本医師会、被災地医師会、支援JMATを派遣する医師会、JMAT隊員のそれぞれのあり方や他の保健医療チーム、関係団体等との連携について建設的な議論を求めた。
 佐原博之常任理事/石川県医師会理事は、JMATの活動拠点と活動範囲の推移など、被災地での活動内容を説明した上で、日本医師会、石川県医師会、被災地郡市医師会との縦の連携と、各地域の保健医療福祉調整本部を中心とした関係組織との横の連携が重要であるとの考えを強調。その一方、情報共有手段の乱立により混乱したことを問題視し、情報共有のあり方を検証し、災害時における有効なICTの活用を確立する必要があると指摘した。
 その後は、三部構成で講演等が行われた。

第一部 能登半島地震対応とそこから得られた教訓

 近藤久禎DMAT事務局次長/日本災害医学会理事は、被害を受けた医療・福祉の提供体制や施設を支え、被災者に可能な限り元通りの人生、生活を維持してもらうことを目的に活動を行ったと今回の活動を振り返った上で、具体的な活動として、被災地の病院・施設避難の実施や「いっとき待機ステーション」の設置・運営等の内容を報告。今後、高齢化率が高い地域における災害医療について問題提起するとともに、今回は指揮系統と福祉施設の情報システムの整備が最大の課題になったと指摘した。
 齊藤典才石川県医師会理事/石川県JMAT調整本部長は、今回の石川県医師会JMATの活動を振り返り、今後の災害支援に向けて、他団体とのフェーズや活動内容の違いを意識したJMAT要綱の改訂などを提案。更に、初めて導入したFA―SYS(JMAT施設評価統合システム)の有用性や石川県JMAT調整本部と各JMATの連絡手段として用いたTeamsの機能や移行の経緯について概説した。
 続いて細川常任理事が、事前に寄せられた16医師会からの意見・提案について回答。JMATとして心得て欲しいことに、各災害特有の情報を加えた資料を制作する考えを示した他、六つの論点・課題ごとにコメントを述べた。

第二部 これからの先遣JMAT、統括JMATの機能

 秋冨愼司日医総研主任研究員/石川県医師会参与/日本医師会統括JMATは、JMAT活動では出口戦略を設定し、それを踏まえた調整をしていく体制が必要であると指摘。また、寄り添いながら被災者のニーズを把握することが重要であるが、二次避難所では支援が必要な被災者の存在が隠れてしまうなどの課題があったことを説明した他、引き継ぎで活用した施設カルテや介入頻度のトリアージなどを紹介した。
 山口芳裕日本医師会救急災害医療対策委員会委員長/杏林大学医学部主任教授・高度救命救急センター長は、次の災害に向けてFEMA(アメリカ合衆国連邦緊急事態管理庁)を参考に「体制」「連携」「通信」の問題点を探るための問診票を作成することを提案。また、具体的なアウトカムの一つとして指揮系統の階層概念が機能していたかなどが重要になるとした上で、「災害は不確実性を持っているものの、基本的な概念・方略はある程度標準化できる。それをベースにした事前の教育が重要であり、委員会としても貢献していきたい」との考えを示した。
 その後のディスカッションでは、今後の連携体制や情報共有のあり方、機能が異なるさまざまな情報システムの比較、災害対策本部や保健医療福祉調整本部でのJMATの位置付け、新たな支援医師の養成、風土に合った支援のための情報共有、災害時における個人情報保護法の免責の周知などについて、活発な議論が行われた。

第三部 専門的な機関等との連携

 若井聡智日本災害医学会理事/DMAT事務局次長は、災害医療コーディネーションサポートチームの活動について、平成30年に日本医師会と日本災害医学会との間で災害医療に関する相互協定を結んで以降、初めての派遣であり、JMATの枠組みで統括JMATのサポートを行ったことを報告。支援の継続性・一貫性の観点で円滑な支援を行うことができたとした。
 泉川公一日本環境感染学会災害時感染制御検討委員会委員長は、令和2年にJMATと協定を締結して以降、初の本格稼働となった日本環境感染学会DICT(感染症の発生予防を含む避難所における感染制御と感染制御領域の支援に特化したチーム)の今回の活動について、避難所訪問、相談対応、支援物資の提供、感染予防啓発のポスター・動画・マニュアルの作成などの支援を行ったことを報告した。
 その後のディスカッションでは、他団体のチームがどういった役割を担い、JMATと協働していくのかを整理した上で、各研修などを通じて周知することの要望や、各学会との連携・協定を今後どのように考えていくのかといった意見に対して、細川常任理事が「次期の救急災害医療対策委員会において検討していく」と回答した。
 最後に総括を行った茂松茂人副会長は、三部構成の報告を頂いた各登壇者の先生方に謝辞と感想を述べた上で、「今後に向けて災害医療体制の強化を図るためには、各災害において体制整備と課題解決に向けた対応を積み重ね、次につなげていくことが重要になる」とし、引き続きの支援と協力を求め、報告会は終了となった。

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