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令和7年(2025年)3月5日(水) / 日医ニュース

「会員の倫理・資質向上をめざして―ケーススタディから学ぶ医の倫理―」

「会員の倫理・資質向上をめざして―ケーススタディから学ぶ医の倫理―」

「会員の倫理・資質向上をめざして―ケーススタディから学ぶ医の倫理―」

 第10回ワークショップ「会員の倫理・資質向上をめざして―ケーススタディから学ぶ医の倫理―」が2月7日、日本医師会館小講堂で、新型コロナウイルス感染症の影響により休止していたことから5年ぶりに開催された。
 城守国斗常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長は、医の倫理に関する取り組みとして日本医師会の基本原則の一つとなっている「医の倫理綱領」を平成12年4月に定例代議員会で採択した後、医療に対する考え方が変化してきたこと等を踏まえて、令和4年3月に同綱領の改正を行ったことなどを説明。
 また、平成30年に自身も参加した、応招義務を取り上げた厚生労働科学研究にも触れ、「今の応招義務に対する考え方の基になっている非常に大事な研究であった」とした上で、その研究と同じ題材を取り上げている本ワークショップにおいて活発な議論がなされ、その成果が実り多きものとなることに期待を寄せた。
 続いて、「応招義務を巡る諸課題について」と題して講演を行った児玉安司一橋大学法科大学院客員教授/弁護士は、まず「応招義務」と医師法の仕組みについて解説。応招義務に関しては(1)医療の公共性、(2)医師の業務独占、(3)医師の職業倫理―という視点から考える必要があり、どこまで法(公法・私法)で定めるかが課題になっていると指摘した。
 また、応招義務は「正当な事由がなければ、これを拒んではならない」とされてきたが、「正当な事由」の解釈が狭すぎること、たびたび行われた医療法の改正や昨今の働き方改革との関係で、応招義務の考え方に揺らぎが生じてきたため、現在では、応招義務を労働基準法や医療法の枠の中に取り込む方向に変わってきていると説明。そのため、①患者との信頼関係が破綻すれば応招義務はない②地域の医療連携による現実的な対応を基本とする―といったように変化しているが、「医療現場では信頼関係の問題や悩みは尽きず、もっと広がる恐れもある」として、更なる見直しが必要との考えを示した。
 更に、児玉弁護士は、応招義務によって受診者から医師などが危害を加えられるといった事案が散見されていることを憂慮。この問題に関しては、令和4年6月並びに令和6年2月に警察庁より、カスタマーハラスメントなどの事態を繰り返す患者に対して指導、助言、検挙等の必要な措置を講じるよう全国の警察に通達が出されていることを説明するとともに、日頃からの警察との連携強化を呼び掛けた。

二つの事例について活発に討議

 引き続き、座長の樋口範雄東京大学名誉教授から、「討論の課題と進め方」について説明が行われた後、以下の二つの事例について、参加者が六つのグループに分かれて議論を交わし、各グループからの発表並びに全体討議が行われた。
 事例①:外国人患者の例(さまざまな国からの患者が増加していることを踏まえて、円滑な診療のために一部の医療機関にて行われている、通訳の同行を求める院内掲示や、外国人患者を対象とした受診時のアンケートの内容を基に外国人患者の適切な受け入れについて検討)
 事例①の院内掲示に関しては、受診者側に通訳の用意を依頼するのではなく、医療機関側も翻訳ツールやアプリを準備したり、自治体と連携してツールや人材を確保するといった努力が必要との意見が多く出された。
 一方、アンケートについては、設問内容に問題があるとの指摘が多数を占め、日本の診療の流れを説明する文章や、文化や言語が違う中でお互いの信頼関係を構築しながら医療を提供することに理解を求める内容にすることが提案された。
 事例②:指示に従わない患者の例(「薬の服用を勝手にやめる」「食事内容の成分制限を守らない」「医師や看護師、職員に対して暴言や侮辱的言動を行う」など、指示に従わない患者への対応について検討)
 薬の服用や食事については、副反応や宗教的な理由等が関係している場合もあるとして、まずはよく話を聞くべきとする一方で、暴力や暴言には迅速な対応が重要との考えが示され、対応方針をマニュアル化し、院内で共有することの他、警察や地域の医療機関と情報共有し連携することなどさまざまな意見が出された。
 最後に、あいさつした城守常任理事は、「本日の意見をお聞きし、『日本医師会ペイシェントハラスメント・ネット上の悪質な書込み相談窓口』や医療通訳サービスの更なる周知・広報に努める必要性を再認識した」と述べるとともに、地域医療構想やかかりつけ医機能報告制度にも触れ、「これらとの関係も含め、本日は良い議論ができたと思う」と総括し、ワークショップは終了となった。

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