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令和7年(2025年)9月5日(金) / 南から北から / 日医ニュース

怖い顔

 どうも歳をとってから、いろいろな所での受付の私への対応が硬いというか、通り一遍だというか、笑顔が無いというか、まあ、親切ではないように感じる。おかしいなー、私の認識では、私はそれなりに紳士然として髪もそれなりに生えている。若い頃から教授と間違えられるくらいだ。白衣を着て出掛けたら良いかも知れない。
 外国へ行った時もそうだった。ホテルでチェックインを並んで待っていた際、レセプションの若い女性は前の人ににこやかに応対していた。笑い声も聞こえた。優しそうな子で安心だな、と思っていた。ところが私の番になると、彼女の顔がこわばったように見えた。怖い顔をした東洋人が来たと思ったのだろうか。私も苦手な英語を聞き逃さないようにと緊張していたので、きっと表情が硬かったのかも知れない。私の顔が井上陽水に似ていると思えば、その対応もあり得るかも(申し訳ない、井上陽水殿の名前を出して)。次のホテルヘ行った時も、対応は似たようなものだった。
 私が偉いのは、他人を責めるより、自分を変えなければいけないと思うところだ。以来、国内、海外問わず、できるだけ笑顔を作るようにしている。ある日、鏡の前で笑顔を練習してみた。だが、鬼が笑っても仏の顔にはならず、ただ鬼が笑った顔になるだけだと悟った。
 先日、と言っても2月だが、家内と一緒に銀行口座の解約に行った。私は赤いダウンに茶色のニット帽、手袋をした、見るからに寒そうなおじいさんの格好だった。銀行の鏡を見たら、井上陽水がニット帽を被ったような怖い顔をしていた。受付のお姉さんが、「お隣の方はお嬢さんですか?」と言った。「そんなわけないだろ」と内心ムッとしたが、それを悟られないように笑顔で「そうです」と答えた。家内は慌てて「違います、家内です」と答えていたが、横を見ると勝ち誇ったような顔をしていた。
 私のクリニックには男性患者さんもそれなりに来る。多くは盛り上がったシミの相談だが、目の下やほうれい線のシワが目立つ人もいる。そうした患者さんには自己多血小板血漿(PRP)の治療を勧めている。2週間後の再診の際、シワが改善して若々しくなっているのはもちろんだが、それ以上に表情が柔らかくなっているのに気付く。そうか、顔の凹凸が少なくなると柔和に見えるのだ。「あ、これは怖い顔を改善するのに役立つ治療だ」と思い、学会でも発表した。
 それ以来、「先生、私の怖い顔を直してください」という患者が来ないかと毎日、心待ちにしている。が、今のところ、まだ現れない。
 読者の皆さん、そんな顔の方はいませんか? そう、あなたです!

富山県 医報とやま NO.1865より

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