大学の入局同期がクリニックをやめるという話を伝え聞いた。本人に確認したところ、医療法人ごと譲ることにしたのだそうだ。ご子息は医療とは別の分野に進んでおり、閉院あるいは承継は時期の問題であった。
一般的には普通に年金がもらえる年齢になればリタイアも当然だが、地域の医療事情を考えれば大きな損失になる。平時の地域医療への影響に加え、学校医は担当が10数校はあり、これをカバーする他の医療機関の負担も増えることになる。
今回は若手医師への承継という理想的な引退ではあるが、その心境はというと、(1)職員の確保が困難になり、人材を確保することに疲れた、(2)医業収入そのものが減少し、経営に不安が生じた、(3)自身に体力的問題がある、(4)残りの人生を余力のあるうちに楽しみたい、(5)第三者の継承者がタイミングよく見つかった―ということであった。もっともな理由で、これは私達開業医に共通した悩みだ。
彼の今後は未定とのことだが、病院勤務を含めフルに働くことは考えていないそうだ。財務省では、約10万件ある診療所を4万件ほど減らす意向もあると聞くが、廃院後の医療従事者の多くが病院勤務に向かうものでもあるまい。
単純に医療従事者のロスになるとすれば、健診や予防接種、学校医などを含めた地域の医療は支えられなくなる。国民が医療や保健福祉を受けられなくなれば、医療費(社会保障費)は節約できるかも知れないが、本末転倒にならぬことを願う。
(SK)



