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令和8年(2026年)2月20日(金) / 日医ニュース

出産費用の無償化の具体化に当たっては産科医療機関の経営が担保され妊婦が安心して出産できる制度を目指すべき

出産費用の無償化の具体化に当たっては産科医療機関の経営が担保され妊婦が安心して出産できる制度を目指すべき

出産費用の無償化の具体化に当たっては産科医療機関の経営が担保され妊婦が安心して出産できる制度を目指すべき

 令和7年度第3回都道府県医師会長会議が1月20日、日本医師会館大講堂で「周産期医療提供体制を巡る課題と出産費用の在り方」をテーマとして開催された。
 政府が目指す出産費用無償化について、人口減少や産科医不足など各地の実情を踏まえて活発な討議が行われ、産科医療機関の経営が担保され、妊婦が安心して出産できる制度を目指すべきとの認識が共有された。

 会議は城守国斗常任理事の司会により開会。冒頭あいさつに立った松本吉郎会長は、「周産期医療提供体制を巡る課題と出産費用の在り方は喫緊の課題となっており、しっかり議論して頂きたい」と要請した。

Fグループによる討議及び全体討議

 その後、森本紀彦島根県医師会長が進行役を務め、Fグループ(青森県、福島県、福井県、愛知県、兵庫県、島根県、香川県、熊本県)による討議が行われた。
 青森県医師会は、人口減少に伴い、県内の分娩(ぶんべん)施設が2014年度から2024年度の10年間で、29から21へ減少したとし、「意図せず集約化が進んでいる」と報告。大都市以外では居住地から分娩施設までの距離が遠くなったという課題はあるものの、分娩数が減少していることから、医療機関の人的不足は見られないとした。
 福島県医師会は、東日本大震災の影響により人口が約30万人減少し、分娩施設も半減したことから産科医が足りず、激務にならざるを得ない状況にあると説明。その上で、分娩の報酬が一律に決められ、もしそれが労働に見合わなければ、産科医の撤退や周産期医療を選択する若い医師がいなくなるとの懸念が寄せられていることも紹介した。
 福井県医師会は、同県における出産費用は国の想定する標準費用と同程度であることから、単価設定によるリスクは高くないとする一方で、これにより都市部への一極集中が加速することを危惧。また、無痛分娩が保険適用になれば需要が急増することが見込まれ、限られた医療資源の中で母子の安全を脅かす事態が生じかねないと指摘した。
 愛知県医師会は、妊婦には多様な出産の選択肢を用意すべきだが、出産を保険適用化することで民間医療機関が無くなれば、妊婦は周産期母子医療センターを有する総合病院の産科病棟しか選べなくなるとして、日本医師会に対して出産の保険適用化・無償化に反対の立場を取るよう求めた。
 兵庫県医師会は、産科医が不足する中、妊婦の高齢化、帝王切開率や低出生体重児の増加といった課題に直面しているとし、ハイリスク妊産婦への対応の改善が必要であると強調。出産費用の無償化については、分娩取扱医療機関が減少する可能性があると危機感を示した。
 島根県医師会は、開業医の減少により分娩が病院に集中し、各病院の働き方改革にも影響するような厳しい状況になっていることを説明。二次医療圏ごとの周産期母子医療センターを核とする、診療所における分娩システムが将来的に機能しなくなるのであれば、「周産期医療圏」をより広い視野で考えていく必要があるとした。
 香川県医師会は、各分娩取扱施設が多様なサービスを提供している中で、出産費用の統一化は難しく、結局個人負担は変わらないのではないかとの見方を示すとともに、出産費用を保険適用とするのではなく、出産育児一時金を現状より引き上げるのが現実的で、産科医への影響も少ないとの見解を述べた。
 熊本県医師会は、産婦人科医が全国一の少数県であり、出産を取り扱う医療機関が減少し、産婦人科医の高齢化が進む状況において、周産期医療をどう守るかが大きな課題であると強調。妊婦の負担軽減だけでなく、受け皿となる医療機関の健全な経営も重要であるとして、出産費用の無償化を具体化するに当たっては、慎重な検討が必要であるとした。
 全体討議では、出産費用の無償化により、中小の医療機関が撤退を余儀なくされるとの懸念が相次いだ他、主に助産師が介助する正常分娩を医療行為として一律に評価することの疑義や、出産育児一時金を100万円に引き上げるなどの提案がなされた。
 これらの議論を受けて、松本会長は、「議論は現在継続中であり、日本医師会としてもその具体化に向けては産科医療機関の経営がきちんと担保され、妊婦も安心して出産ができる制度となるよう、日本産婦人科医会・日本産科婦人科学会の意向を尊重しつつ、国の審議会等で引き続き意見を述べていきたい」として、理解を求めた。

周産期医療提供体制と出産費用の無償化を巡る検討状況を説明

 続いて、濵口欣也常任理事が事前に寄せられていた質問に回答する形で、「周産期医療提供体制を巡る課題と出産費用の在り方」について、これまでの検討の経緯や日本医師会としての見解を説明した。
 出産費用の無償化については、(1)令和5年4月に出産育児一時金が42万円から50万円に引き上げられた、(2)令和5年12月の閣議決定を受けて出産費用の見える化を進めるとともに、令和8年度をめどに出産費用(正常分娩)の保険適用の導入を含めて出産に関する支援等の更なる強化について検討を進めることとされ、新たに設置された「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」において、関係団体や当事者からのヒアリングを踏まえ、多様な観点での議論が進められる中で、無償化が打ち出された、(3)これを踏まえ、令和8年度をめどに、産科医療機関等の経営実態等にも十分配慮しながら、標準的な出産費用の自己負担無償化に向けた具体的な制度設計を進めることとされ、医療保険制度における出産に対する支援の強化として新たな給付体系の導入について、社会保障審議会医療保険部会で検討が行われてきた―ことを概説。
 医療保険部会では、医療保険制度において、出産育児一時金に代えて現物給付化を図る出産独自の給付類型を設け、新しい給付体系として、①「分娩1件当たりの基本単価」並びに「手厚い体制やハイリスク妊婦の積極的な受け入れ等に対する加算」が現物給付として医療機関に直接支払われる②保険診療が必要となった場合は従来どおり療養の給付とするが、妊婦の自己負担3割分については現金給付の活用が可能③アメニティー等のサービスは妊婦の選択による自己負担とする―案(下図参照)が打ち出されたとした。

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 また、給付体系の詳細設計については、産科医療現場の実態を十分に踏まえ、特に、分娩1件当たりの基本単価や加算の給付水準に関して一次施設を守ることが重要との認識の下、保険財政と分娩取扱施設の経営の双方に与える影響のバランスを考慮して丁寧に議論されることとなっており、移行に当たっては、当分の間、施設単位で現行の出産育児一時金の仕組みも併存させつつ、可能な施設から移行する方向となっているとした。
 一連の検討に当たる日本医師会の姿勢については、「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会」での議論の中で妊産婦だけでなく、医療機関にとってもより良い制度設計にする必要性を主張し続けてきたと報告。
 医療保険部会の議論においても城守常任理事が、「これまで自由診療と出産育児一時金により行われてきた出産対応を、現物給付化するという大きな変革をもたらすものであり、新たな制度が妊婦の経済的負担を軽減し、子どもを産みたいという思いにつながる制度であること」「地域の周産期医療を守る分娩施設、特に一次施設において、分娩を引き続き頑張ろうと思える制度にする必要があること」を訴え、適切な水準を求めてきたと説明した。
 一方、周産期医療提供体制の検討においては、「小児医療及び周産期医療の提供体制等に関するワーキンググループ」における議論の中で、病院並びに診療所の経営状態の厳しさを訴えるとともに、健全な経営の上にこそ地域医療構想の議論が成り立つことを強調した上で、一次施設を守ることを第一義として、一般的な分娩も対象とする医療の集約化と役割分担・地域連携、都道府県・郡市区医師会のリーダーシップ、産科救急を含めた遠方の妊婦への支援、人材育成の議論などに臨んでいるとした。

日本医師会からの中央情勢報告等

 日本医師会からの中央情勢報告では、まず長島公之常任理事が令和8年度診療報酬改定について説明。外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)を届け出ることで、(1)令和7年度補正予算の医療機関等における賃上げ・物価上昇に対する支援事業の実施、(2)令和8年度診療報酬改定(賃上げ対応)―に関して大きなメリットがあることを強調し、「補正予算の事業では、診療所は令和8年3月1日時点で届けている施設が対象となるため、ぜひ、2月中の届け出を検討頂きたい」と呼び掛けた。
 更に、その届出方法についても、直近1カ月間の初・再診料等の算定回数を調べるだけで届出書添付書類の作成が可能になるなど、大幅に簡素化されているとして、会員への周知を求めた。
 今村英仁常任理事は、厚生労働省より、有料職業紹介事業者等に関する同省の取り組み等に関する説明並びにトラブル事例の把握を行うため、都道府県労働局が都道府県医師会を訪問することについて、協力依頼があったことを報告。
 また、現在、ハローワークでは医療・介護・保育分野等の人材確保を強化するため、さまざまな取り組みが展開されているとして、その活用を求めた。
 城守常任理事は、若手医師の献身的な努力と先駆的な実践等を顕彰し、その活動を広く社会に発信することで地域医療の価値を高めるとともに、次世代医師の励みとすることを目的に、令和8年度より「日本医師会地域医療奨励賞」を創設し、日本医師会設立記念式典並びに医学大会において顕彰する運びになったことを紹介。各都道府県医師会に対して推薦の協力を求めた。
 濵口常任理事は、現行の医療通訳サービスに「場面別定型フレーズ機能」を追加するとともに、外国人患者の対応フローに沿った操作となるようホーム画面も刷新して使いやすくしたことを報告。「一般的な翻訳サービスや家族・友人の通訳では、誤訳や内容の歪曲(わいきょく)が生じて医療の安全が保たれない恐れもあり、ぜひ、同サービスを活用して欲しい」と述べた。
 最後にあいさつした松本会長は、令和8年度診療報酬改定では物価高騰や賃金上昇に対する手当てが初・再診料に上乗せされる形で行われるとして、外来・在宅ベースアップ評価料(Ⅰ)の届け出の検討を改めて要請した。

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