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令和8年(2026年)5月20日(水) / 日医ニュース

若手医師の多様な取り組みを共有

藁谷常任理事藁谷常任理事

藁谷常任理事藁谷常任理事

 令和8年度シンポジウム「未来ビジョン"若手医師の挑戦"」が4月18日、日本医師会館小講堂で開催され、都道府県医師会からのZoom参加に加え、公式YouTubeチャンネルにてライブ配信も行われた。
 本シンポジウムは、若手医師たちの取り組みにスポットを当て、医療の未来ビジョンについて考えることを目的に開催しているもので、今回で4回目となる。
 笹本洋一常任理事の司会で開会。冒頭あいさつをした松本吉郎会長は、「医療の未来は若い先生方に委ねられている」とした上で、「こうした先生方がいかにきちんとした医療を、国民の生命と健康を守るために提供し、活躍していただくか。その一点に掛かっている」と強調。さらに、今回のシンポジウムの内容を全国の先生方で共有し、各地域で生かしていく重要性を示すとともに、「国民への発信に一番大きな力になるのは、若手への先生方の発表が最も良いのではないか」と投げ掛けた。
 続いて、松井道宣京都府医師会長が座長を務め、四つの講演の後、フロアを交えた意見交換が行われた。

(1)都道府県医師会役員として活躍する若手医師の取り組み

 「素人が医師会の役員に!?―災害医療と、現場から始まる改革」
 藁谷暢(福島県医師会常任理事/総合南東北病院外科医長)
 
 藁谷常任理事は、医師会に関わるきっかけとして、能登半島地震を挙げた。DMATとして石川県輪島市に派遣されたことに触れ、「その際に学んだのは、診療だけをやっていても地域医療は回らない。地域の医師会や地元の医療が復興しないと、その地域の復興はあり得ない。医師会や地域の開業医の先生方との連携が重要だと痛感し、医師会に興味を持った」と振り返った。
 また、コロナ禍もきっかけの一つとし、医師会という存在を認識するとともに、医師会と行政の連携の重要性を実感したとした。
 福島県医師会での現在の取り組みとしては、(1)JMAT研修の開催、(2)BCP・マニュアルの策定、(3)救急・災害医療におけるDX化―等を紹介。今年度からは、相互理解の観点でDMATの訓練にJMATが参加していることにも触れ、「それぞれの得意・不得意を理解した上で、互いに連携・協力しなければ良い支援はできない」と訴えた。
 さらに、東北6県の医師会が連携し、広域災害に強い医療体制を構築する「日本医師会JMAT東北構想」にも言及。「平時から連携体制を整備することで顔の見える関係を築いたり、広域連携JMATの構築を進めたりしている」と述べた。
 日本医師会の未来医師会ビジョン委員会にも触れ、「多様で多彩な委員の先生方とのディスカッションは、非常に学びが多く、刺激を受けている」と語った。
 その他、若手医療人材の育成を進め、学び続けることができる仕組みを作るための方策として、①災害医療教育(JMAT等の実践的研修を広げ、若手医師が現場で学べる機会の整備)②若手の医師会参画促進(福島県版「未来医師会ビジョン委員会」の実現等)③教育モデル構築―を掲げ、「福島発のモデルを広げ、若手医師の育成と参画を進めていきたい」と意気込んだ。

(2)ロボット手術の最前線を切り拓く若手大学教授の取り組み

 「ロボット心臓手術を駆使した挑戦:若手教育と医療の未来」
 高橋洋介(大阪公立大学医学部心臓血管外科教授)
 
260520f2.jpg 高橋教授は、従来の胸骨正中切開とは別に、近年は体に負担の少ない新しい方法として、胸骨を切らない手術「小切開手術(MICS手術)」が発展してきていることを報告。さらに、「ロボット心臓手術は低侵襲で患者さんにとっても意味がある」とし、その代表例である「ダヴィンチ手術システム」にも触れ、僧帽弁閉鎖不全症に対する、弁を切らない弁形成術「Loop technique」をダヴィンチ手術で行っている動画を紹介し、大阪公立大学では、現在までに700例以上実施しているとした。
 ロボット手術については若手教育を変える技術であるとし、教育的観点からの利点として、①手術内での同一視野をリアルタイムで共有するため、術者の視点で学ぶことができる②チーム全体で状況認識が統一できるため、合併症発生時に迅速な対応が可能である③手術の流れの理解が容易で、チーム医療が強化される―ことが挙げられるとした。
 また、ロボット手術は執刀医(console surgeon)と助手(bed side surgeon)との共同作業であるとし、「bed side surgeonが術野をコントロールする影の術者としての役割を果たしており、多くのことを学ぶことができ、最終的には次のconsole surgeonになっていく」と説明。bed side surgeonを育てるために、「僧帽弁形成術の手術手順の確認」「bed side surgeonの二人体制」「術前の3D CTを用いた人工腱索の長さの測定と手術中の結果確認」「術後の術中画像による振り返り」を行っているとした。
 その上で、高橋教授は「ロボット手術は一部の先進施設の話ではなくて、患者さんの利益と人材育成を両立させる次世代の医療の基盤である」と強調した他、ロボット手術の研究として医工連携に取り組んでいることや、ロボット手術の今後の展望として、「術者の能力を拡張するスマート手術支援が可能になる」といった方向性を紹介した。

(3)家庭医として活躍する若手医師の取り組み

 「家庭医療を軸とした若手医師の多面的な取り組み」
 田中いつみ(滋賀家庭医療学センター)
 
260520f3.jpg 田中氏は、家庭医について「地域住民の健康のために働く総合診療医」であることなどに触れた上で、総合診療の専門研修に入る前に在宅医療を経験したことにも言及。自分の人生を変えた医師が所属する北海道寿都町(すっつちょう)の診療所の見学を振り返り、一番印象に残っていることとして「置き去り実習」を挙げ、「私はここで初めて、病気を持つ人ではなく、生活者としての患者さんを診るという経験をした」と振り返った。
 一方で、家庭医を目指す道のりについてはネガティブキャンペーンの嵐で落ち込むこともあったが、学生時代に「学生・研修医のための家庭医療学夏期セミナー」で、同じ志を持った多くの人々と出会ったことが心の支えになったばかりでなく、「病院に来る前の人、予防の段階の人にも関わりたい。その気持ちが私を総合診療の道に推し進めてくれた」と語った。
 また、総合診療医・家庭医の仕事内容は多岐にわたることなどに触れた上で、病院勤務時代は急性期医療がほとんどで、慢性期・家庭医療は週1回程度だったが、今のクリニックでは慢性期・家庭医療が大半を占め、最近ではマネジメントや研修医教育に取り組むことも増えていることに言及。家庭医とは、働く場所や必要とされることによって姿を変える「カメレオン」のような存在であるとした。
 この他、現在の活動としては学会の広報活動や初期研修医を対象としたメンタリング、町の委員会活動、日本医師会の未来医師会ビジョン委員会などにも積極的に参画していることも紹介した。
 今後については、「総合診療医・家庭医として、患者さんご本人だけでなく、生活背景まで診れる医師であり続けたい。そういった同じような考えを持つ若手を育てたい」と述べ、総合診療医・家庭医が文化として日本に根付くことに期待を寄せた。

(4)京都府医師会ワークライフバランス委員会が考える若手医師に向けた取り組み

 「少数派の視点は、組織の伸びしろ~何者でもない私に役割をくれた京都の懐~」
 上田三穂(京都府医師会理事/京都府立医科大学ワークライフバランス支援センターみやこコーディネーター)
 
260520f4.jpg 上田理事は、京都府医師会のワークライフバランス委員会について、「全ての医師が心身共に健康に過ごし、誇りを持って働き続けられる」というミッションの下、活動を展開していることを報告。
 具体的な取り組みとしては、「妊娠に際し職場のみんなで読むマニュアル」を紹介。「医師の妊娠・出産には独特の悩みポイントがある」「多様な価値観に医師の世界が追い付いていない」などの課題を踏まえ、情報共有によって状況を改善させる狙いがあるとし、「妊活の体験談」「術者として働く妊婦のリアル」「復帰後の働き方」といった内容をウェブサイトに掲載しているとし、「累計アクセス数は12万を超えたが、もっと多くの医師に読んでもらいたい」と話した。
 また、物理的セーフティーネットとして「子育てサポートセンター『こさぽるーむ』」を、心理的セーフティーネットとして「子育て医師の会in京都」にも取り組んでいるとした。
 ワークライフバランス塾in京都については、多様なキャリア形成やワークライフバランスに関わるスキルを学び合うために年1回開催しているとし、これまで働き方改革や検診、生成AIをテーマに実施してきたとした。
 さらに、京都府医師会全体の取り組みにも触れ、「屋根瓦ワーキングチームのようにバリバリと医療や教育を引っ張る若手を後押しする土壌がある一方で、ワークライフバランス委員会のように、今は十分に働けないマイノリティを包み込む仕組みも同時に存在している。多様な視点を両立していることが、京都の懐の深さだ」と述べた。
 その上で上田理事は、多様な視点によって初めて組織は真に強くなるとの考えも示し、「あなたはあなたのままで、医師会に来てください。他人や過去は変えられなくても、多様な視点が組織の伸びしろとなり、医療の未来を変える力になる」と訴えた。
 その後の意見交換で活発な議論が交わされた後、閉会のあいさつで笹本常任理事は本シンポジウムを更に発展させる取り組みとして、都道府県医師会の協力の下、開催地で活躍する若手医師の活動や、医師会による若手支援の取り組みなどをテーマにした地方版シンポジウムを新たに始めることを紹介。第1回目は京都府医師会の協力により、8月29日(土)に京都府医師会館で開催する予定であるとして、参加を呼び掛けた。

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