勤務医のページ


大学医師会設立への思い
令和8年4月1日、一般社団法人久留米大学医師会を設立し、同年6月、福岡県医師会の郡市医師会として正式に承認された。
久留米大学にはこれまで大学医師会が無く、大学に勤務する医師は久留米医師会を始め、それぞれの地域医師会に所属していた。
全国の多くの医学部・大学病院に大学医師会が存在する中、本学においてもその必要性は以前から認識されていたが、大学と地域医師会との関係、事務局体制、法人化、会費制度など、整理すべき課題も多く、設立には至っていなかった。
今回、設立に踏み切った背景には、大学病院を取り巻く環境の大きな変化がある。
少子高齢化と人口減少が進む中、医療提供体制の再構築が求められ、新たな地域医療構想では、大学病院本院が担う「医育及び広域診療機能」が明確に位置付けられた。大学病院には、高度・専門医療の提供だけでなく、卒前・卒後教育、医師派遣、広域診療、研究開発を通じて、地域全体の医療を支える役割が求められている。
一方、医師の働き方改革、人材不足、診療科偏在、病院経営の厳しさなどにより、大学病院が従来と同じ方法でその使命を果たし続けることは容易ではない。大学病院だけで課題を抱え込むのではなく、県医師会、郡市医師会、行政、地域医療機関と協力し、地域全体で医療を支える仕組みを構築する必要がある。その接点となる組織が大学医師会である。
医学部と病院の協働により実現した設立
久留米大学医師会の会長には、医学部長である山本健先生に就任をお願いした。山本先生は、設立準備の段階から本会の趣旨に深い理解を示してくださり、法人設立や学内調整を始め、多大な協力をいただいた。
大学医師会を病院だけの組織とせず、医学部長を会長として医学部と大学病院が協働する体制としたことには、大きな意味がある。医学教育は、学生教育、卒後臨床研修、専門医教育、生涯教育へと連続するものであり、医学部と病院のシームレスな連携なくして、その質を高めることはできないからである。
医学生は、臨床実習において「Student Doctor」として診療に参加し、卒業後は研修医、専攻医、そして専門医へと成長していく。大学医師会が学生・研修医の段階から医師会活動や地域医療に触れる機会を提供することにより、医学教育と地域医療を結び付ける新たな教育基盤となることを期待している。
勤務医部会で得た実感
私自身、令和5年から福岡県医師会勤務医部会に所属し、勤務医の立場から医師会活動に関わってきた。
令和6年1月には、勤務医部会・男女共同参画部会合同研修会において、「働き方改革の先にある未来を創造しよう―一人ひとりが輝くために―」と題し、若手医師に向けて講演する機会を得た。
この講演を構想するに当たっては、久留米大学医学部同窓会長であり、日本医師会長を務められた横倉義武先生の下で取りまとめられた日本医師会第四次医師会将来ビジョン委員会答申「『Society 5.0』における医師会」から、多くの示唆を得た。
講演では、働き方改革を単なる労働時間の短縮と捉えるのではなく、医師の健康を守り、地域医療を持続させ、さらに研究・教育の質を高めるための契機として考える必要性を述べた。
また、医師会は行政と医療現場をつなぐプラットフォームであり、時代や制度を変革する「イノベーションのエンジン」であるべきだと訴えた。
さらに、AIや医療DXが進展するSociety 5.0の時代には、医師一人ひとりが未来の医療を受け身で待つのではなく、自ら構想し、行動することが重要であると指摘した。
この活動を通じ、勤務医、とりわけ若手医師が医師会活動を身近なものとして捉え、自らの意見を発信する場の必要性を強く感じた。
大学医師会の設立は、その思いを具体的な組織として形にする取り組みでもある。
医学は大学で、医療は地域で学ぶ
大学病院は医学教育を担う医育機関である。しかし、大学病院で経験する医療は、高度急性期・専門医療に偏りやすい。高齢社会においては、急性期疾患だけでなく、慢性期、回復期、在宅医療、介護との連携までを視野に入れ、患者の生活を支える医療を学ぶことが重要となる。
私は、「医学は大学で学び、医療は地域、そして医師会を通じて学ぶ」という視点が必要であると考えている。
大学では病態、診断、治療、研究方法を体系的に学ぶ。一方、地域では、患者の生活背景、家族、就労、介護、社会制度を含めて医療を考える。両者を往還することにより、疾患だけでなく「人を診る」医師が育つのである。
大学医師会は、学生、研修医、若手医師が早期から医師会活動や地域医療に触れる入口となる。診療報酬や医療政策、医療安全、災害医療、産業保健など、専門診療だけでは十分に学ぶことのできない領域について、理解を深める機会を提供したい。
地域医療を共に支える
久留米大学病院は、筑後地域を中心に広域の高度・専門医療を担うとともに、多くの関連医療機関へ医師を派遣してきた。
医師派遣は単なる人事配置ではない。大学で育成した医師を地域へ送り出し、地域で培われた臨床経験を再び大学の教育・研究へ還元する循環である。この循環が維持されてこそ、大学病院の医育機能と地域医療への貢献は両立する。
しかし、医師の働き方改革や診療科・地域間の医師偏在が進む中、大学病院だけで人材育成と医師派遣を担い続けることには限界がある。
今後は、大学、福岡県医師会、久留米医師会、行政、地域医療機関が、医師の育成・確保・配置を共通の課題として捉え、地域全体で持続可能な医療提供体制を構築していく必要がある。久留米大学医師会には、勤務医の声を集約して地域医療構想や医療政策へ届けるとともに、関係機関の対話を促進する役割を期待している。
大学医師会の設立は、既存の地域医師会から離れて活動することを意味するものではない。むしろ、久留米医師会及び福岡県医師会との連携を一層深めることが目的である。久留米医師会には、設立準備の段階から深い理解と多大な支援をいただいた。
今後は、病病・病診連携、医師派遣、若手医師の育成、災害医療、地域医療構想などの分野で、それぞれの強みを生かしながら協働を進めていきたい。
医療は、一つの医療機関の中で完結するものではない。大学病院、地域病院、診療所、在宅医療、介護が有機的につながってこそ、住民の生活を支える「面としての医療」が成立する。
久留米大学医師会は、まだ歩み始めたばかりである。医学部と大学病院が一体となり、会員一人ひとりの声を大切にしながら、大学と地域、学生と医師、若手と先輩、臨床と政策を結ぶ場として育てていきたい。そして、地域医療を共に支える新たな基盤として、その役割を着実に果たしていきたい。



