10年目のカルテ

知識と経験を活かして診療科の狭間をカバーする

【腫瘍内科(化学療法科)】金政 佑典医師
(都立駒込病院)-(前編)

抗がん剤治療の専門家

永井先生

――まず、腫瘍内科とはどのような診療科なのか教えていただけますか?

金政(以下、金):腫瘍内科は、簡単に言えば、抗がん剤治療を専門とし、臓器横断的に悪性腫瘍を診る診療科です。腫瘍内科のある病院はまだ全国的に多くなく、得意とする分野も病院によって異なりますが、がん患者の増加に伴い、これから増えていく診療科だと思います。

――先生が勤務する都立駒込病院の腫瘍内科では、主にどんな患者さんを診るのでしょうか。

:この病院の腫瘍内科は、他の診療科と役割分担しながら、主に消化器がんと悪性リンパ腫を担当しています。他にも、希少がんや原発不明がんといった特殊ながんや、多臓器転移を診るのも腫瘍内科の役割です。

具体的には、患者さんは具合が悪くなった場合、まず臓器別の診療科にかかります。もしそこでがんが見つかり、手術適応となったら、手術と術後の抗がん剤治療は外科系の診療科が行うことが多いです。一方、再発がんや、転移がある場合には、それぞれの専門科からコンサルトを受けて腫瘍内科で診ることになります。臓器別の診療科の狭間になる分野をカバーしているというイメージですね。

 

1week
10年目のカルテ

知識と経験を活かして診療科の狭間をカバーする

【腫瘍内科(化学療法科)】金政 佑典医師
(都立駒込病院)-(後編)

腫瘍内科医の専門性

――臓器別の診療科の医師も抗がん剤治療をするなかで、腫瘍内科医の専門性とはどのようなところにあるのですか?

:全身のがん治療について横断的に知識を持ち、長所・短所や副作用を考えながら治療にあたることができるというところです。特に、標準的な治療が難しい患者さんを診るときに、その専門性が活きると思いますね。比較的若くて体力もあるような患者さんであれば、ガイドラインに沿った治療方針を立てればよいことが多いですが、高齢であったり、臓器の機能が弱っている患者さんの場合、臨床試験の基準から外れていて、治療のエビデンスがないことも多いんです。各症例の個別性がとても高いので、それぞれの症例について合併症などのアセスメントをし、知識と経験に基づいて工夫しながら治療法を決めていくのが、腫瘍内科の腕の見せどころだと思います。

――患者さんとのコミュニケーションも重要そうですね。

:はい。特に完治が難しい方の場合、患者さんが何を大事にしたいかをしっかり聞き、相談しながら治療を行っています。治療すること、しないことそれぞれにメリット・デメリットがあるので、それらを提示しながら、患者さんの希望する選択肢を提示することが私たちの使命でもありますね。その結果、治療をしないという選択をすることもあります。

また、副作用の出方についても、治療の前に患者さんへの情報提供を欠かさずに行っています。副作用が出たら、抗がん剤の量を減らしたり、治療期間を延長したりしながら調整していきます。こうした調整の技術は、経験を積むことによって熟達していくものだと思います。

腫瘍内科医のキャリア

――腫瘍内科医としてのキャリアとしては、どのような道が考えられるのでしょうか。

:まずは専門医資格の取得ですね。日本臨床腫瘍学会が設けている「がん薬物療法専門医」を受験する予定です。受験のためには幅広いがんの詳細な症例報告をする書類審査に加え、抗がん剤治療の知識を問われる難易度の高い筆記試験と口頭試問があります。日本で最も難しい専門医試験の一つとも言われているんです。

腫瘍内科医の働き方としては、大きく3つの道があると思っています。1つ目は、今私がいるようながん治療の基幹病院で、腫瘍内科の専門医としてコンサルトを受ける立場で働くこと。2つ目は、腫瘍内科をベースに、消化器がんや呼吸器がんなど臓器別のサブスペシャリティを極めること。そして3つ目は、地方の病院などで、様々ながんを一手に治療する医師になることです。今はまだ腫瘍内科の専門医が少ないため、3つ目の働き方をしている腫瘍内科医はあまりいないと思うのですが、いろいろながんを診ることができるという意味では、そういうキャリアも考えられるのではと思います。

――金政先生自身は、これからどのような働き方をしたいと考えていますか?

:現在は悪性リンパ腫の治療を専門にやっているので、その分野をもう少し極めていきたいです。悪性リンパ腫は、初めは具合が悪くても、抗がん剤の効き方によっては完治を目指せます。これは医師としては非常にやりがいがある。また、新しい分子標的薬も続々と出てきていて、この病院で治験も行っています。そうした治療開発に携わるのも面白いと感じています。

腫瘍内科は、がん治療薬や治療法がめざましく進歩していくなかで、常に最新のがん治療の知識をもち、適切な治療を提案する専門科として、今後ますます必要とされる診療科だと思います。医学生のみなさんにも、この機会に興味を持ってもらえたら嬉しいです。

金政 佑典
2009年 京都大学医学部卒業
2016年1月現在
都立駒込病院
腫瘍内科(化学療法科)

No.16