専門医になるまでの医師のキャリアのロードマップ(前編)

医学部入学から、臨床研修を経て専門医資格を取得するまでのキャリアの全体像を見てみましょう。

 

1week

教養・基礎医学・臨床医学など(4年)

 共用試験(CBT・OSCE)までの座学中心の学習

「医学部に入ってから概ね4年間は、教養教育に加え、医学教育を受けるために必要な生物学・化学などの準備教育、解剖学や生理学などの基礎医学、そして臓器別の臨床医学などを「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に沿って学びます。医学の知識を体系的に学ぶのはCBT・OSCEからなる共用試験までの4年間であり、共用試験では医師国家試験に準ずる内容が問われ、診療参加型実習に必要な知識・技能・態度が備わっているかどうかが評価されます。共用試験に合格することが、5~6年次に行われる診療参加型臨床実習の参加要件となります。

診療参加型臨床実習(2年)

 医師臨床研修マッチング

「マッチング」とは、医学部6年次の10月頃、臨床研修を受ける病院を決定する仕組みのことを言います。翌年度に臨床研修を受けることを希望する人は、マッチングに参加する病院の中から希望のプログラムを選び、希望順位を登録することになっています。研修病院側も様々な形で選考を行い、採用希望者の順位を登録します。これらを、一定の規則に従ってマッチングし、誰がどのプログラムで臨床研修を受けるかを決定していきます。複数の病院・プログラムを希望することはできますが、最終的には希望順位をつけることになるため、見学や説明会に足を運ぶ必要もあります。5年次から6年次の前半にかけて、実習の合間に病院見学を行っている医学生も少なくありません。

臨床研修(2年)

 臨床研修のポイント

・「診療に従事しようとする医師は、指定された病院で2年以上の臨床研修を受けなければならない」と医師法で定められています。
・臨床研修医は研修への専念義務があり、アルバイトは禁止されています。
・原則として、医師臨床研修マッチングによって研修先が決定します。
・内科6か月以上、救急3か月以上、および2年目の地域医療研修1か月が必須とされています。
・外科・麻酔科・小児科・産婦人科・精神科のうち2つ以上の診療科の研修が必須です。
・研修機関は、ルールの範囲内で、特色のある研修プログラムを作ることができます。

専門研修(3年以上)

 専門研修のポイント

・法令に規定はなく、医師のプロフェッショナル・オートノミー(専門家による自律性)により、学会と日本専門医機構のもとで行われます。
・専門研修プログラムで、3年以上の研修を受けることが求められます。
・これまでは、カリキュラムに定められた到達目標を達成した段階で専門医試験の受験資格が与えられる「カリキュラム制」も併存していましたが、新たな仕組みでは、到達目標を年次ごとに定められた研修プログラムに沿って修得する「プログラム制」に原則として統一されることになりました(サブスペシャルティ領域はこの限りではありません) 。
・専攻医(専門研修を受ける医師)のアルバイトは禁止されていません。
・専攻医の定員について、領域や地域などによって上限が定められることはありません。

 

専門医になるまでの医師のキャリアのロードマップ(後編)

医師免許取得までの道のり

「専門医」と言われても、医学部で学ぶ皆さんにとっては遠い将来の話だと思います。そこで、まずは医学部入学から専門医取得までの流れを整理してみます。

医学部入学後の約4年間は、教養課程および基礎・臨床分野の座学、解剖実習や基礎実験を中心に、まずは体系的な知識を獲得することに主眼が置かれます。座学が終わり、4年次の後半に行われる共用試験に合格すると、診療参加型臨床実習を受けることになります。近年、グローバルスタンダードに合わせて臨床実習の比重は拡大しつつあり、医学生の診療への参加の度合いも高まってきています。患者の同意・指導医の指導監視などの条件のもとで、実習生に一定の医行為が許容されるようにもなりました。座学ではイメージしにくい各診療科の違いについても、実習を通じてだんだんと具体的なイメージを持てるようになっていきます。

臨床実習も後半に差し掛かってくると、臨床研修病院探しが本格化します。長期休みや実習の合間を利用して研修病院の見学に足を運び、自分の希望に合った研修先を探す人が多いようです。6年次の夏休み頃を中心に試験・面接が行われ、10月頃に行われる「医師臨床研修マッチング」によって臨床研修病院が決定します。

臨床研修を通して進路を考える

無事に医師国家試験に合格して臨床研修が始まると、研修医はプログラムの規定に沿って様々な診療科をローテートすることになります。平成28年度現在は、内科6か月・救急3か月・地域医療1か月が必須であり、加えて外科・麻酔科・小児科・産婦人科・精神科の中から2科目以上を必ず選択することになっていますが、残りの期間は、ある程度希望に沿った診療科を回ることができます。また、協力機関での研修を選択できるプログラムも多く、様々な医療機関で働く経験を積むこともできます。

臨床研修のローテーションによって様々な分野・施設での診療を経験する中で、研修医の多くがその後のキャリアや専門分野について迷い悩むようです。実際に診療に携わってみると、学生時代は興味を持てなかった分野にも魅力を感じることがありますし、もともとの志望分野とは別の進路を選択する人も少なくはありません。臨床研修の期間は、様々な先輩・指導医と出会う中で、自らの医師としての進路やあり方を深く考える時期でもあるのです。

専門研修プログラムを選ぶ

臨床研修の2年目になると、研修医はその後の進路を本格的に考える時期を迎えます。現在医学生の皆さんが臨床研修医になる頃には新たな専門医の仕組みが動いている予定であり、原則として19の基本領域のいずれかの専門研修プログラムに所属して研修を受けることになります。

専門研修からは、診療科のチームの一員として扱われるようになり、責任も重くなっていきます。ですから、診療内容に興味を持てるかどうかはもちろんですが、研修先の文化や雰囲気が自分に合っているかどうかも選択基準になるでしょう。

その後3年以上の専門研修を経て試験に受かると、ようやく専門医の資格を取得することができます。医学部入学から、最短でも11年の長い道のりが待っているのです。

専門医資格取得に至るキャリアやワーク・ライフ・バランスについては次号で紹介します!