おわりに
~周産期医療体制のこれから~(前編)

ここまで、妊娠前から産後にかけて、医療や保健が幅広くアプローチしていくことの重要性を確認してきました。一方で、医師の偏在や少子化などの影響から、周産期医療システムそのものも、大きく転換することが求められています。

 

周産期医療の集約化に向けて

近年は、出産年齢の高齢化などでハイリスク妊婦の割合が増加する一方で、産婦人科を志望する医師や周産期医療に携わる医師の減少などにより、個々の医師の過重労働が問題となっています。その解決策として、周産期医療の集約化・重点化が推進されています。

「夜間・休日は、平日の日勤帯と比べ、医療機関の人員体制がかなり手薄になります。お産は昼夜関係なく発生しますが、体制の充実した時間帯の割合は約2割に過ぎません。集約化による1病院あたりの医師数の増加、交代制の導入などで、常に充実した体制でお産を受け入れられる状態を作る必要があります。

当院では変則2交代勤務を導入し、個人の事情に配慮しつつ、不公平感が少なくなるようシフトを組んでいます。シニア世代や育児中の医師にも、夜勤のシフトに入ってもらうなどして、一人あたりの連続勤務時間が13時間を超えないようにしています。また、助産師外来を設けたり、医療クラークに書類仕事等を任せるなどのタスクシェアを進めることで、医師の負担を軽減しています。セミオープンシステム*により、妊婦健診や軽症での受診などを、地域の診療所の先生方に対応してもらうことも行っています」(日本赤十字社医療センター第一産婦人科・木戸道子部長)。

周産期医療の集約化は、医師の教育という観点からも重要です。

「少子化により、特に人口の少ない地域での分娩件数は減少しています。研修医などが周産期医療の経験を積むためにも、基幹となる医療機関に多くの症例が集まることが望まれます」(木戸部長)。

 

*セミオープンシステム…妊娠35週前後まで、地域の診療所で妊婦健診等を行い、その後の管理や分娩は提携する分娩施設で行うシステムのこと。オープンシステムでは、診療所のスタッフが健診を行い、分娩立ち会いにも出向く。

 

周産期医療システム

 

分娩取り扱い施設数と医師数の推移

(クリックで拡大)

日本産婦人科医会施設情報調査2018より引用

 

おわりに
~周産期医療体制のこれから~(後編)

地域で連携して妊産婦を診る

一方で、ハイリスク妊婦を集約化された医療機関に送ればすべて解決する、というわけではありません。ハイリスク・ローリスクを問わず、妊産婦を診る際には特別な知識や配慮、そして他科との綿密な連携が要求されるからです。

「平成の時代、国は高度な周産期管理を行える『総合周産期母子医療センター』等を各地域に設置し、低リスクの周産期医療を担う病院・診療所との層別化を進めてきました。こうした層別化は、主に早産児の救命という観点から行われてきたものです。しかし、例えば母体に脳出血があり、脳神経外科と連携が必要なケースを考えると、周産期に特化したセンターだけでは、必ずしも医療を完結させられるとは限らないことに気付きます。

また、比較的症状は軽いものの、他科にかかる必要のある妊婦の場合、紹介状を持っていったり、自分で説明するなどして、患者さん自身が診療科をつないでいかなければなりませんでした。

令和の時代の周産期医療では、『ハイリスクな妊婦を高度な病院に送り、院内で各診療科が連携する』という発想から脱して、妊産婦の個々の状態に応じ、地域の実情に即したネットワークを作ることが求められているのではないでしょうか。地域医師会や周産期医療協議会を中心にあらかじめネットワークを構築し、患者さんが何も言わなくとも、『あなたを受け入れる準備はすべて整っていますよ』と迎えられるような状態を作っていきたいですね」(日本医師会・平川俊夫常任理事)。

 

取材・制作協力

●「お産」を取り巻く医療と保健
平川 俊夫 日本医師会常任理事

●「産みたい人が産みたいときに産み、育てる」ための支援
●妊娠から分娩までの流れ
●分娩の流れと様々な対応
木戸 道子先生 日本赤十字社医療センター 第一産婦人科部長
髙橋 有希さん 日本赤十字社医療センター 分娩室
坂本 里美さん 日本赤十字社医療センター 5B周産母子ユニット

●産後の母子のフォローアップ
木戸 道子先生 日本赤十字社医療センター 第一産婦人科部長

●おわりに~周産期医療体制のこれから~
平川 俊夫 日本医師会常任理事
木戸 道子先生 日本赤十字社医療センター 第一産婦人科部長

 

 

No.33