平成28年(2016年)4月5日(火) / 日医ニュース
警察活動に協力する医師の全国組織化を目指して
平成27年度 都道府県医師会「警察活動に協力する医師の部会(仮称)」連絡協議会・学術大会
- 000
- 印刷
平成27年度都道府県医師会「警察活動に協力する医師の部会(仮称)」連絡協議会・学術大会が3月6日、日医会館で開催された。
連絡協議会は担当の松本純一常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで横倉義武会長(松本常任理事代読)は、5年前に発生した東日本大震災を振り返った上で、「この時の経験が警察活動に協力する医師の全国組織化の動きを加速化させ、今日に至っている」とするとともに、「犠牲になられた方々の無念な思いに応える意味でも、死因究明に関する取り組みを一層本格化させなければならない」として、引き続きの協力を求めた。
報告Ⅰでは、中澤貴生内閣府死因究明等施策推進室参事官が、地方協議会の状況を中心に、死因究明等施策の進捗状況を説明。地方では、検案医の高齢化、人材不足、処遇の問題がより深刻化しているとするとともに、「施策をより推進していくためには、地方での意識の高まりが重要になる」とした。
小林博岐阜県医師会長は、自身が委員長を務める日医の「警察活動等への協力業務検討委員会」の検討内容について概説。「全国の業務実態を把握するために調査を実施したが活動はさまざまで、全国統一化するには時間がかかる」との考えを示すとともに、今後の課題としては、①部会組織のあり方②協力業務を取り巻く環境の整備─等を挙げた。
報告Ⅱでは、細川秀一愛知県医師会理事が、大規模災害時に検案に特化した検案医を派遣することを目的として、平成27年12月に愛知県医師会、愛知県歯科医師会、愛知県警の三者で協定書を締結したこと等を説明。今後の大規模災害に際しては、ローテーションを組んで検案に当たっていきたいとした。
大木實福岡県医師会常任理事は、「死体検案研修会(基礎)」の実施など、福岡県医師会の活動を紹介するとともに、各都道府県医師会においても、このような研修会を各都道府県警と共に実施する必要があると指摘。日医に対しては、「全国統一した活動ができるよう、警察庁としっかり話し合いをして欲しい」と述べた。
引き続き行われた協議では、①「大規模災害時の死体検案体制について─全国規模での連携・協定」の締結(岩手県医師会)②「警察活動に協力する医師の部会(仮称)」の活動費の補助(長崎県医師会)─を求める要望が出された。
これに対して、松本常任理事は、①については、警察庁と協議を進めていることを説明。②に関しては、「財政状況が厳しい中ではあるが、引き続き検討していきたい」として理解を求めた。
その他、参加者からは「Ai等に係る国の予算の増額」「医師の教育カリキュラムに検案を盛り込むこと」「検案にかかる拘束時間の短縮化」を求める意見が出された。
学術大会─検案事例を基に6名の医師が報告
引き続き、午後からは学術大会が行われた。
「在宅死と死体検案~特に孤独死と入浴中浴槽内死亡」と題して特別講演を行った福永龍繁東京都監察医務院長は、まず、東京都監察医務院の活動として、①異状死の判断基準を作成し、都内の病院に配布したこと②医師や遺族から異状死に関する相談を電話で受け付けていること─などを紹介。
社会問題にもなっている「孤独死」については、「孤独死」を「1人暮らしの自宅での死亡」と定義して行った調査の結果、①男性の孤独死の発生頻度は女性の4倍であること②死因としては消化器系疾患が多いこと─等が明らかとなったとし、「今後、孤独死の増大が懸念される中で、本調査の結果を全国でも参考にして欲しい」とした。
また、「高齢者の入浴中における浴槽内での死亡」に関しては、全検案数の約1割を占める大きな問題だと指摘。その原因はさまざまであり、死因を特定するためにも解剖検査体制の整備が急務だとした。
その上で、福永院長は、「防ぐことができる死を防ぐためにも、全国に適切な死因究明制度を広げることが必要であり、そのためには『解剖の受け皿づくり』『検案医の身分保障』が不可欠だ」として、その実現を強く求めた。
その後は、一般公募演題として、6名の医師から、自身が携わった検案例等に基づいた講演が行われた。
福島県いわき東警察署の警察医中村雅英氏は「干し芋により窒息死した事例」「外尿道口から挿入した異物が腹腔内まで達し、腹膜炎を惹起し死亡した事例」にAiを行い、得られた所見について報告。
宮城県医師会警察活動に関する協力検討委員会の木下弘志氏は、①Aiの導入により検案件数自体は減少傾向にあること②法医学派遣チームを編成し、東南海地震関連の救援準備を進めていること─などを紹介した。
福岡県警察医会の高宮紘士氏は、正座を中心とする生活を続けたため、下腿に深部静脈血栓が形成され、肺動脈血栓塞栓症を発症し死亡した事例を、また、兵庫県監察医務室の長崎靖氏は、警察によって病死と判断されたにもかかわらず、監察医の解剖により外因死と診断された事例をそれぞれ報告した。
大阪府警察医会の河野朗久氏は、平成27年度に熱中症死を疑った5事例を報告、今後の地域包括ケアの構築に向けた課題を提起した。また、大阪府警察医会の中間健太郎氏は、急性大動脈解離等の大動脈疾患死亡例での検案所見について、確定診断がなされた例を基に検討した結果を説明した。