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令和7年(2025年)7月20日(日) / 日医ニュース

医療機関の経営危機を打破するため国に対して賃金上昇・物価高騰等への対応をあらゆる機会を通じて求めていく決意を示す

医療機関の経営危機を打破するため国に対して賃金上昇・物価高騰等への対応をあらゆる機会を通じて求めていく決意を示す

医療機関の経営危機を打破するため国に対して賃金上昇・物価高騰等への対応をあらゆる機会を通じて求めていく決意を示す

 第159回日本医師会定例代議員会が6月22日、日本医師会館大講堂で開催された。
 冒頭、あいさつした松本吉郎会長は「医療機関の経営危機の改善に向けて」「組織強化」「新たな地域医療構想等」「地域医療を担う人材確保」「医療DX」「医薬品をめぐる最近の状況」「7月の参議院議員選挙」の7項目について、日本医師会の考えを説明。
 引き続き、「令和6年度日本医師会事業報告の件」については茂松茂人副会長がその内容を概説した。「第1号議案 令和6年度日本医師会決算の件」「第2号議案 令和8年度日本医師会会費賦課徴収の件」については角田徹副会長が提案理由を詳説し、挙手多数により承認された。
  また、19の代表質問があり、執行部から回答を行った。

会長あいさつ(全文)

1.はじめに

 第159回日本医師会定例代議員会にご出席を頂き、誠にありがとうございます。
 また、日頃より日本医師会の会務運営に特段のご理解とご支援を頂いておりますことに対し、この場をお借りしまして厚く御礼申し上げます。
 本日の定例代議員会では、昨年度の事業報告に加え、2件の議案を上程致しております。慎重にご審議の上、何卒ご承認賜りますよう、お願い申し上げます。

2.医療機関の経営危機の改善に向けて

 日本医師会は、「骨太の方針2025」の策定に向け、(1)経済成長の果実の活用、すなわち税収等の上振れ分の活用、(2)「高齢化の伸びの範囲内に抑制する」という社会保障予算の目安対応の見直し、(3)診療報酬等について、賃金・物価の上昇に応じた公定価格等への適切な反映、(4)小児医療・周産期医療体制の強力な方策の検討―の4点を主に主張して参りました。
 3月30日の第158回臨時代議員会以降、自由民主党、公明党の社会保障制度調査会、「医療・介護・福祉の現場を守る緊急集会」「国民医療を守る議員の会」などで日本医師会の考え方をその都度説明させて頂きました。「国民医療を守る議員の会」では、日本医師会の主張を踏まえた決議が採択され、石破茂内閣総理大臣には、同決議など2度にわたり医療現場の窮状を私から直接訴えさせて頂きました。
 「骨太の方針2025」につきましては、6月6日の経済財政諮問会議において原案が示されました。その後、自民党政調全体会議や公明党など与党内で、医療機関の経営危機や、賃金上昇、物価高騰対応について、日本医師会の要望に沿った議論が行われ、社会保障関係費に関する記載が修正されました。
 歳出改革の中での「引き算」ではなく、賃金・物価対応分を「加算する」という「足し算」の論理となったことが非常に重要なポイントであり、年末の予算編成における診療報酬改定に期待ができる書きぶりとなりました。
 「骨太の方針2025」の社会保障関係費の部分につきましては、代表質問でも頂いておりますので、後ほど詳細にご説明しますが、「税収等を含めた財政の状況を踏まえ」と明記されたことで、日本医師会が「経済成長の果実の活用」として求めていた、税収等の上振れ分の活用の視点が盛り込まれました。
 更に、「高齢化による増加分に相当する伸びにこうした経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する。」とされ、日本医師会が求めてきた賃金・物価の上昇に応じた公定価格等への適切な反映が明記されました。高齢化分とは別枠で賃金対応分等を加算するという意味だと理解しています。
 この部分は6月6日に示された原案から劇的な前進となりました。
 また、「次期報酬改定を始めとした必要な対応策において、2025年春季労使交渉における力強い賃上げの実現や昨今の物価上昇による影響等について、経営の安定や現場で働く幅広い職種の方々の賃上げに確実につながるよう、的確な対応を行う。」とされ、注釈には2025年春季労使交渉の平均賃上げ率5・26%等の数字が明記されました。
 この数字は次期診療報酬改定において念頭に置かれるものと認識しています。
 著しく逼迫(ひっぱく)した医療機関の経営状況を改善するため、診療報酬だけでなく、補助金での対応も不可欠です。
 今回の「骨太の方針」を確実に実施できるよう、夏の参議院議員選挙、その後に行われる見込みの秋の令和7年度補正予算編成、更には年末に向けた予算編成過程の議論における令和8年度診療報酬改定の財源確保が極めて重要となります。
 また、診療報酬改定に向けては、日本医師会として「令和7年度診療所の緊急経営調査」を実施しております。
 本調査の結果は診療報酬改定の議論における強力なツールとなりますので、回答へのご協力を何卒よろしくお願い申し上げます。
 一方で、財務省財政制度等審議会等は引き続き歳出改革努力を求めてきます。
 医療経営の危機を打破するとともに、高齢化、医療の高度化に加え、賃金上昇・物価高騰に対応できるよう、あらゆる機会を通じて、引き続き政府与党に求めて参ります。

3.組織強化

 組織強化は、決して一過性のものではなく、継続的な取り組みの積み重ねにより成し得ていくものと考えております。
 令和5年度より導入した医学部卒後5年間の会費減免を契機に、若手医師の入会促進と医師会活動への理解醸成への取り組みは、着実に浸透してきているものと思います。
 今後は、その成果を一層発展させるべく、各地域の特性に即した、より具体的かつ一歩踏み込んだ取り組みに、特段のご協力を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
 日本医師会としても、新たに運用を開始した医師会会員情報システム「MAMIS」が、その一助を担えるものになるよう、しっかりと育てて参ります。
 医師会が、国民の医療を守り、医師の診療と生活を支える組織としての揺るぎない使命を果たし続けていくためには、組織強化を通じた組織力の更なる向上を図りつつ、医療を取り巻く課題解決に資する、確かな影響力を備えた力強い組織へと一段の成長を遂げていくことが必要です。
 現場の声を医療政策の決定過程へ的確に反映させるべく、日本医師会は引き続き、組織強化に向けて全力を尽くして参ります。

4.新たな地域医療構想等

 新たな地域医療構想については、医療と介護の連携や「包括期機能」など日本医師会の提案の具体化を図るべく、ガイドライン、あるいは、現行の医療計画の中間見直しや、次期介護保険事業計画との整合性も見据え、議論に臨んで参ります。
 同時に、自民党、公明党、日本維新の会の3党合意もなされましたが、医療提供体制が、人口変動、医療の需給や受診行動の変化に柔軟に対応できるようにしなければなりません。
 特に、先の病床数適正化支援事業の第一次内示で対象外となった病床については早急に支援が必要です。
 加えて、地域医療構想との整合性、地域の実情や将来の医療需給などを考慮しつつ、病床の削減を決断した医療機関をしっかりと支える財政支援策を国に対して求めて参ります。
 更に、物理的に医療へのアクセスが困難な地域のために、6月18日には「公益的なオンライン診療に関する協議会」を、日本医師会を始め、日本歯科医師会、日本薬剤師会、日本看護協会、日本郵政、日本郵便、全国郵便局長会、自治医科大学、内閣官房、総務省郵政行政部、厚生労働省医政局と共に開催いたしました。
 今後もいかなる方策が更に有効か、検討を進めて参ります。

5.地域医療を担う人材確保

 新たな地域医療構想など、これからの医療提供体制を考える上で、今後、医療人材の確保が欠かせません。
 医師偏在対策では、厚労省より医師偏在是正に向けた広域マッチング事業を受託し、会内にプロジェクト委員会を設け、現在、体制を整えつつあります。
 また、医師の養成や派遣などについて大学関係団体等との連携強化にも取り組んで参ります。
 なお、今月初め、特定の医療機関への取材に基づく、国民に誤った印象を与えかねない報道が一部でありました。日本医師会として強い問題意識をもっており、即座に当該のメディアに問題点を指摘し、正しい医療の情報の報道に十分配慮することを強く要請いたしました。
 また、看護職員の確保については、5月16日に全国規模での「令和7年度医師会立看護師等養成所会議」を初めて開催し、多くの医師会役員、養成所の教員の参画を頂きました。
 今後も、教育現場の声をお聴きしながら、地元に根付いて看護を担う人材の養成支援に努めて参ります。

6.医療DX

 医療DXにつきましては、地域医療を守るため「全ての医師が、現状のままでも医療が継続できる」ことが大前提であると考えています。そのため、電子処方箋(せん)や電子カルテの義務化には断固として反対しております。
 それと同時に、電子化を希望する医師にとっては、できるだけ導入や維持がしやすい環境整備を国に働き掛けております。
 今回、「骨太の方針2025」においては、さまざまな医療DXの施策について「政府を挙げて強力に推進する」とうたわれていますが、併せて、体制整備のための「必要な支援を行う」ことや、「必要に応じて医療DX工程表の見直しを検討する」ことも明記されており、これまでの日本医師会の主張を一定程度取り入れて頂けたのではないかと考えております。
 引き続き、医療機関が医療DXを導入・維持していくためには十分な財政支援が必要であることや、工程表ありきで拙速に進めるべきではないことなど、医療DXの適切な推進に向けて、現場の声をしっかりと主張して参ります。

7.医薬品をめぐる最近の状況

 「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)」は、医薬品等の安全性確保と信頼回復を目的として、近年相次いだ不祥事や社会的課題に対応するために改正されました。
 しかしながら、依然として医療現場では医薬品供給不安が続いており、更なる実効性の向上や迅速な対応が求められるため、補助金等の十分な予算措置も含め、現場の声を踏まえた意見・要望をしっかりと今後も国に伝えていく所存です。
 今春、国においてOTC類似薬等に関する議論が盛んに行われました。この件でマスコミの報道に怒りや不安を感じておられた先生方も多いかと存じます。医療費適正化のみを目的とする過度なセルフメディケーションやスイッチOTC化を進めることには反対です。国がセルフメディケーションの旗の下に、最も重要である患者、利用者の安全性やOTC医薬品の原理・原則を軽視し、経済性に過度に偏った施策を行うことは許されません。
 スイッチOTC化やセルフメディケーションを拙速に進めることは、自己判断による誤用で重篤な疾患の発見が遅れる恐れがあります。
 特に、高齢者などでは、医師との対話の機会が減少し、病歴や服薬歴の記録が途切れ、診療の精度が落ち、健康リスクが高まります。
 また、適正使用されず、乱用の増加も懸念されます。セルフメディケーションは、セルフケアの一つの手段であり、ヘルスリテラシーと共にあるべきです。
 国においては、国民の安心・安全を第一に考えて進めていって欲しいと思います。
 OTC類似薬を保険適用から除外すると、例えば院内での処置等に用いる薬剤や、更には薬剤の処方、また在宅医療における必要な薬剤使用に影響することが懸念されます。これは絶対に避けなければなりません。
 更に、医療機関にアクセスできても、地方やへき地等で、市販薬に簡単にアクセスできない地域もあり、十分な留意が必要です。
 セルフメディケーションに関する日本医師会の考え方については、代表質問でも頂いておりますので、詳細はその際にご説明いたします。
 今後も、OTC医薬品やセルフメディケーションに関するこうした動きは必ず出てきます。
 日本医師会として、わが国の世界に冠たる国民皆保険制度をゆがめることがないよう、しっかりと注視して参ります。

8.7月の参議院議員選挙

 来月に迫った参議院議員選挙に向け、候補者の各都道府県への訪問も2巡目、3巡目に入り、郡市区等医師会への訪問も精力的に行っています。私ども執行部も各都道府県並びに郡市区等医師会の代議員会や医師連盟の決起大会に訪問させて頂き、支援の拡大を図っております。
 一方、今、わが国の医療・介護・福祉は未曾有(みぞう)の危機に直面しています。人口減少、高齢化の進行に加え、急激な賃金上昇、物価高騰への対応に各施設は困難を極めています。既に病院や介護施設の廃院によって、必要な医療・介護の提供が困難な地域も出現しています。
 このような現状に鑑みれば、今回の参議院議員選挙は今までの選挙と異なり、わが国の医療・介護・福祉の未来を問う大変大事な選挙と認識しております。
 わが国の未来のために、更なるご協力、ご支援をお願い申し上げます。

9.おわりに

 結びに当たり、今後とも国民の生命と健康を守るべく、本会執行部に対しまして皆様からの絶大なるご支援を賜りますよう切にお願い申し上げまして、私からのあいさつとさせて頂きます。

代表質問回答要旨

1 抗生剤や鎮咳剤、去痰剤等の薬剤やワクチンが不足する状況について

250720a2.jpg 川島崇代議員(群馬県)からの、抗生剤や鎮咳剤、去痰剤等の薬剤やワクチンが不足する状況に対する日本医師会の方針を問う質問には、宮川政昭常任理事が回答した。
 同常任理事は、日本医師会が国に対して速やかな状況改善を求めた結果、企業製造施設の無通告立入検査の実施や製薬企業への補助金支出等、実効性の高い取り組みが進められるようになったと説明。
 その一方で、医療現場では依然として医薬品不足が継続していることから、供給偏在の解消や更なる安定供給能力の強化並びに持続可能かつ医療状況に即した産業構造の確立に向け、製薬企業の生産・出荷量、卸売業者の在庫量、医療機関での投薬量、薬局での調剤量等のリアルタイムな流通の可視化の実現を求めるとともに、安定供給確保マネジメントシステムの構築の重要性を指摘しているとした。
 その上で、同常任理事は引き続き、国と業界団体に医療現場の声を届け、偏在解消及び適切な増産等の対応を促すとともに、持続可能な医薬品産業構造の構築の早期実現を求めていく考えを示した。

2 「医師の働き方改革」による多職種確保も含めた2036年4月以降の展望について

250720a3.jpg 今野信太郎代議員(三重県)は、(1)2036年4月以降の医師の働き方改革における地域医療への影響に対する見解、(2)医師も含めた多職種にも目を向けた未来の医療提供体制への展望―について質問し、城守国斗常任理事が回答した。
 (1)では、「医師の働き方改革と地域医療への影響に関するアンケート調査」を2023年度から継続的に実施し、地域医療への影響についての把握に努めていることを説明。これらの調査結果や地域医療の状況等から、地域医療への多大な影響が危惧される場合は、エビデンス等に基づき、国の検討会等でその解決に向けて働き掛けていくとした。
 (2)では、現場でそれぞれの役割を担う人材の確保が最も大切であり、特に①人材の養成②配置③処遇改善―に取り組む必要があると指摘。
 ①及び②においては、広域マッチングや財政支援策等の偏在対策を具現化する他、医師以外の多職種についても将来需給の推計と対策を求めていくとするとともに、地域に根差した各種医療人材養成所の設立・運営の検討の必要性にも触れ、新たな地域医療構想のガイドライン策定の際に主張していくとした。
 また、③では、医療従事者が安心して健康に働き続け、魅力的な職場にするためには処遇改善が極めて重要だとして、引き続きその財源確保を求めていく考えを示した。

3 有料職業紹介事業が医療機関に与える影響、その対応について

4 医療・介護・福祉に係る人材不足について~ハローワークの活性化を求める~

250720a4.jpg 医療人材の確保に関する有料職業紹介事業の問題について日本医師会の対応を問う、大坪由里子(東京都)、長島徹(栃木県)両代議員の質問には、松岡かおり常任理事が一括答弁を行った。
 同常任理事はまず、少子高齢化が進む中で人材確保に対応するに当たり、やむなく民間の有料職業紹介事業者に頼らざるを得ない医療機関の現状について言及。高額な手数料が、公定価格である診療報酬を原資とする医療機関の財務基盤の脆弱(ぜいじゃく)化を招き、医療界に深刻な影響を与えているとして、大変憂慮すべき事態であるとした上で、この対策として(1)公的機関の活性化、(2)高額な手数料を取る有償の事業者に対する規制の強化―の2点を推進したいと強調した。
 (1)では、昨年5月より日本医師会女性医師バンクとの業務提携も行っているハローワークの有効活用を国に求める他、都道府県医師会のドクターバンクの周知及びサービスの充実に向け、日本医師会としても共に検討し解決に努めていくとした。
 また、厚生労働省から「医師偏在是正に向けた広域マッチング事業」を受託し、既存の女性医師バンクを包括する形でドクターバンク事業を拡大する予定であることを報告した。
 (2)では、日本医師会がこれまで国等へ規制強化を強くかつ継続して要求してきた結果、「事業者からの情報提供の義務付け」「2年間の転職勧奨やお祝い金等の金銭提供の禁止」「特別相談窓口の設置や事業者への指導監督」が打ち出される等の規制強化が進み、「骨太の方針2025」でも本件への対策が盛り込まれるなど、更なる規制強化が期待できると述べた。
 また同時に、日本医師会も参画している「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者の認定制度」において、法令上の規定に上乗せした基準を設けて認定を行っていることの他、紹介手数料の引き下げに関する働き掛けとしては、本年4月より各事業者に対し、人材サービス総合サイトにおいて「取扱職種ごとの常用就職1件当たりの平均手数料率」を公開することが義務付けられたことを紹介。「日本医師会としても、こうした規制強化の動きが実効性をもって着実に実行されるよう、逐次国に要求していく」とした。

5 小児医療・周産期医療体制への強力な支援について

250720a5.jpg 上塘正人代議員(鹿児島県)からの、小児医療・周産期医療体制への具体的な支援方策とその実現に向けた対応について日本医師会の見解を求める質問には、濱口欣也常任理事が回答した。
 同常任理事はまず、日本医師会はこれまでも本件を重要テーマとして取り上げ、政府・与党に医療機関の窮状を訴え、別次元の対応を求めるとともに、令和8年度の診療報酬改定を待たずに補助金等を通じた強力な支援方策を講じるよう、繰り返し国に要望していることを説明。
 また、昨年度補正予算において「人口減少や医療機関の経営状況の急変に対応する緊急的な支援パッケージ」の一環として産科・小児科医療確保事業が盛り込まれたことに触れ、「総額55億円では全く足りない」として、引き続き必要な財政支援の確保に努めていくとともに、厚生労働省に対しては、補助申請の簡潔かつ迅速な手続きの実現及び補助金の早期交付を強く求めていく考えを示した。

6 医療DX現状と課題(電子カルテ導入を含む)

250720a6.jpg 佐藤光治代議員(長崎県)からの、医療DX推進に係るコスト増や電子カルテ等の導入に対する日本医師会の見解を問う質問には、長島公之常任理事が回答した。
 同常任理事は、まず、医療DXの推進に当たり、「全ての医師が、現状のままで医療が継続できる」ことが大前提であることを強調。その上で、4月下旬から5月にかけて日本医師会が実施したアンケートによると、紙カルテを利用中の診療所の過半数が、「ITに不慣れである」「導入費用が高額過ぎる」等の理由により、電子カルテ等の導入は不可能と回答していることを報告するとともに、電子カルテや電子処方箋(せん)の義務化は地域医療の崩壊を招くとの認識を示し、断固として反対していく姿勢を改めて示した。
 一方、3割強の診療所が、国が開発中の標準型電子カルテ導入を希望していることにも言及。今後も、工程表ありきの導入スケジュールではなく、現場の費用負担軽減を図りながら、医療の安全・安心を最優先として医療DXを推進するよう、国に働き掛けていくとした。

7 人口減少社会に入った今、日本医師会が為(な)すべきことは何か?

250720a7.jpg 鳴戸謙嗣代議員(広島県)からの、「日本医師会への入会を保険医資格の要件とすべきではないか」との質問には今村英仁常任理事が、(1)会内委員会等で議論され、「得るものと失うものを考えると得策とは言い難い」と結論付けられている、(2)地方厚生局が担っている役割の全てを日本医師会が行うのは困難である―ことを挙げ、この結論を尊重する考えを説明。その上で、「松本執行部発足以降、継続的に取り組んでいる組織強化の成果が少しずつ出始めている」とし、理解と協力を求めた。
 続いて、「地域間格差の広がる中で、全国一律の医療制度が成立するのか」との疑念に対しては、松本会長が診療報酬単価の問題は極めて慎重な議論が必要であると指摘。また、財務省は特に都市部において1点単価を引き下げることを主張しているものの、引き上げることは毛頭考えておらず、地域別に1点単価を変えることは医療費の総枠管理に直結し、将来の医療費の抑制に利用されることから容認できないとした。
 その上で、この問題の解決のためには全国一律の診療報酬体系とし、地域の実情に応じて補助金等を組み合わせ、面として地域を支え、対応していくべきだとの考えを示した。

8 物価高騰・賃金上昇に見合った診療報酬改定の実施を

250720a8.jpg 野中雅代議員(北海道)からの、物価高騰・賃金上昇に見合った診療報酬改定の実施を求める要望には、江澤和彦常任理事がまず、日本医師会が令和8年度診療報酬改定に向けた4本の柱(別記事参照)を政府・与党に全力で働き掛けるとともに、医療界が一致団結して主張した結果、「骨太の方針2025」では、当初の厳しい原案から大きく前進し、年末の予算編成における診療報酬改定に期待できる書きぶりになったと説明した。
 また、今後については令和6年度補正予算の早期執行や、診療報酬引き上げのための安定的財源の確保ばかりではなく、新たに令和7年度補正予算での対応や期中改定も必要な状況にあると指摘。年末に向けて令和8年度診療報酬改定の議論が本格化する中においては、物価高騰・賃金上昇も踏まえたプラス改定を強力に求めていく考えを示した。
 その上で、同常任理事は「骨太の方針2025」を踏まえ、参議院議員選挙、令和7年度補正予算、予算編成過程における令和8年度診療報酬改定の財源確保のプロセスが極めて重要だとし、全身全霊で取り組む決意を示した。

9 増加する医療的ケア児の支援について

250720a9.jpg 前川たかし代議員(大阪府)からの、増加する医療的ケア児の支援についての質問には、坂本泰三常任理事が回答した。
 同常任理事は、急変時の受け入れ体制は患者と在宅医療を担う医療機関の双方にとって大事であり、都道府県医師会と行政が連携して各地域で整備することを要請。成人を迎えた医療的ケア者の緊急時の受け入れ体制の整備も急務となっており、会内の小児在宅ケア検討委員会の中間答申も踏まえて検討するとした。
 レスパイトについては、福祉型短期入所での受け入れ拡充が考えられると指摘。医師がいない施設における短期入所の安全確保には医療との連携が不可欠とした他、医療が必要な時に外部から入って対応する場合の手当ては、障害福祉等サービス報酬あるいは、こども家庭庁の予算等で検討すべきだとした。
 更に、看護職員の確保が非常に重要であり、学校での人材確保は、日本医師会役員も参画した令和6年度文部科学省調査研究事業で取りまとめられた事例集を参照するよう呼び掛けた。
 その上で、同常任理事は、今後も小児在宅ケア検討委員会を通して関係省庁に現場の声を届けるとともに、省庁間の連携をつなぐ役割を果たしていくとして、理解を求めた。

10 社会を蝕(むしば)むセルフメディケーション

250720a2.jpg 藤田泰宏代議員(高知県)が、セルフメディケーションの推進が社会を蝕んでいるとして、セルフメディケーションに対する日本医師会の見解を問うたことに対しては、宮川常任理事が回答した。
 同常任理事はまず、やみくもにセルフメディケーションを推進することや社会保険料の削減を目的としてOTC類似薬の保険適用除外やスイッチOTC化を進めることには、(1)医療機関の受診控えによる健康被害の増加、(2)国民の経済的負担の増加、(3)薬の適正使用が難しくなる―などの問題があると指摘。「これらに加えて市販薬の乱用の懸念もあり、この点に関して国は、日本医師会からの強い要望を受けて、本年5月に成立した改正薬機法において乱用の恐れのある医薬品の販売方法を見直した」とし、今後は学校保健担当役員と連携し、学校保健でのメンタルヘルスや薬物乱用教育などの充実にも努めていく考えを示した。
 その上で、同常任理事は、社会を蝕むようなセルフメディケーションのあり方には日本医師会としても反対であり、引き続き、国・製薬関係団体の取り組みを注視しながら、医会や学会とも緊密に連携を取り、適切に対応していくとした。

11 総合病院で必要な精神科医療を充実させるための施策提言

250720a8.jpg 鈴木克治代議員(青森県)は、(1)「障害者として認定される前段階の状態の精神疾患罹患(りかん)者に対する急性期医療」に関する医療計画は厚労省医政局が担うようにする、(2)総合病院の精神病床について、入院基本料の格差是正を国に求める―ことを要望。
 これに対して、江澤常任理事は(1)について、障害者として認定される前段階の状態の精神疾患罹患者への医療提供も含め、医療計画の指針等については担当部局の医政局と協議していく考えを表明。「医療計画の上位概念である『新たな地域医療構想』は医政局の所管であり、精神科医療も対象となるため、精神科の医療構想にもしっかりと対応していく」とした。
 また、(2)に関しては、「精神病床は急性期でさえ入院基本料が低く抑えられているとの指摘に対しては、さまざまな実態調査結果を踏まえ、次回改定に向けて協議していく」と述べるとともに、「総合病院からの精神科離れを食い止めるためにも、精神病床の設置が不利益とならぬよう、次回改定に向けてしっかりと議論していく」として、理解を求めた。

12 准看護師学校養成所の未来について

13 医師会立准看護師養成所の存亡について

14 医療における人の育成をどのようにとらえるのか

250720a10.jpg 准看護師学校養成所の現状や医療関係職の育成に関しては、市川菊乃(東京都)、齊藤道也(福島県)、堀地肇(富山県)各代議員が質問し、黒瀬巌常任理事が一括答弁を行った。
 (1)准看護師の未来と運営維持に苦しむ養成所に対する考えについては、「現在のような逼迫(ひっぱく)している状況においても、『准看護師は医療介護分野に人材を呼び入れるための重要かつ欠かせないエントリー資格』という考えに疑問を挟む余地は無い」と強調。本年5月に日本医師会で初めて開催した医師会立看護師等養成所会議において厚労省の担当者より、「看護師になるルートの一つとして准看護師の仕組みは必要であり、教育の充実を図りつつ、入学資格の就業経験年数の短縮などの取り組みを行っている」との発言があったことを紹介した。
 (2)看護学校の運営維持に向けた具体策に関しては、厳しい財政状況を鑑みると、医師会が巨額な赤字を補填(ほてん)して看護学校を継続することは極めて困難とする一方で、「医療は社会インフラであり、看護職の確保は自治体を中心に関係者が協働して解決する責任がある」として、福井県医師会が県に働き掛け、「看護師養成所学生確保重点支援事業」が予算化された事例を紹介。好事例として参考にするよう呼び掛けた。
 (3)病院の看護基準に准看護師をカウントすることについては、「病院団体からは看護師の配置基準について提供されている医療の質やプロセスの評価に重点を移す要望もあるが、たとえ報酬体系そのものを見直す場合でも、准看護師を始めとした医療関係職種が適切に評価される仕組みとなるよう取り組む」とした。
 (4)授業料の無償化に関しては、国によるさまざまな学費支援制度がある中で、准看護師課程や社会人がその対象から外れてしまうケースが多いとした上で、「人口減少時代でも社会機能を維持するためには、専門資格を要するエッセンシャルワーカー養成に対する学費無償化などの確保策も検討しなければならない」と述べた。
 (5)医療従事者の育成については、医師が本来の専門的業務に専念できるよう、日本医師会として医療秘書の養成に取り組んでいるが、看護学校と同様に志望者が減少していることを説明。働き方改革に伴うタスクシフトや医療DXへの対処が求められる中、医療秘書は必須な存在であることを強調し、養成の継続に向けた協力を要請した。
 (6)地方で養成した看護職が大都市に流れることへの見解については、その要因として、①看護職になりたいと思った際に地元に看護学校が無い②処遇向上やキャリアアップの機会を求めて都市部で働くことを希望する可能性がある―の2点が考えられると指摘。その上で、地域に看護学校が存在すること、かつ職務内容に見合った賃上げと処遇改善が欠かせないとして、賃金・物価の上昇に対応可能な原資を十分確保できるよう政府に要望するとともに、診療報酬改定に向けても努力していく考えを示した。
 (7)サテライト構想など看護師育成におけるDX等の取り組みや進捗状況に関しては、5月に開催した養成所会議において厚労省へサテライト化に係る手引きやガイドラインを示すよう依頼したところ、「一定の要件を満たせば、効率的な学校運営という観点からもぜひ実施して欲しい」との意向を確認したことを報告。また、厚労省による「看護現場のDX促進事業」において、モデル校が実施した事例集に係る事務連絡を5月27日に発出したことを挙げ、進捗があった際には適時提供していく姿勢を示した。

15 災害時の地域医療情報ネットワークの有効性

250720a11.jpg 滝山義之代議員(北海道)は、医療機関間の迅速な情報共有を可能にする地域医療情報ネットワーク(以下、地連NW)について、災害時のインフラとしての活用を踏まえ、更なる整備等に向けた日本医師会の考えを質(ただ)した。
 佐原博之常任理事は、地連NWの統合や規格の統一については、日本医師会として従前から「必要になってくる」と主張してきたことを説明。本年3月に行われた医療情報システム協議会での講演で示された、秋田県と山形県の地連NW「秋田・山形つばさネット」などの好事例を周知しながら広域化を進めていきたいとの考えを示した。
 また、滝山代議員からの提案を基に、既に日本医師会から内閣官房に対して、財源の手当ても含めた地連NWの維持・強化を国土強靭(きょうじん)化基本計画並びに年次計画等に組み入れるよう強く働き掛けていること、更に、地域医療介護総合確保基金が地連NWの更新時においても、広域化や災害対応を行った場合にも適用できるよう厚労省へ要請したことなどを報告。引き続き、地連NWの有用性を示しつつ、国に訴え掛けていく姿勢を示した。

16 CDRに関する日本医師会の考えについて

250720a12.jpg 江原孝郎代議員(茨城県)からのCDR(チャイルド・デス・レビュー)に対する日本医師会の考えと取り組みについての質問には、渡辺弘司常任理事が回答した。
 同常任理事は、CDRは予防可能な子どもの死亡を減らすことを目的として、令和2年度からモデル事業が始められたものの、昨年度は10自治体の実施に過ぎず、更に、小児保健、死因究明等、多くの領域にまたがる施策であるため、CDRの実現には医療現場の負担が過度にならない仕組みとすること等の課題があると指摘。
 その上で、本年5月に設置されたこども家庭庁の検討会への参画や日本医師会のこれまでの取り組みを説明し、「CDRは子どもの命を守るための社会全体の取り組みであり、今後はその制度化に向けて国の検討会において医療界を代表する立場から現実性のある議論を喚起していく」と述べるとともに、医療分野はもとより、警察、行政、保育所など社会全体の理解と協力を求めていく意向を示した。

17 モンスターペイシェント対策について

250720a13.jpg 重永博代議員(滋賀県)からのモンスターペイシェント対策に関する質問には、藤原慶正常任理事が回答した。
 同常任理事は、まず、「日医ペイシェントハラスメント・ネット上の悪質な書込み相談窓口」の利用状況に関して、5月末時点で133件の相談が寄せられ、そのうちネット上への誹謗(ひぼう)中傷等の書き込みが86%であること等を説明。また、今後の「モンスターペイシェント対策」に関しては、会内の「医療従事者の安全を確保するための対策検討委員会」が令和4年に取りまとめた対策案で触れられているとおり、地域の医師会、行政、警察等が日頃から緊密な関係を構築しておくことが極めて重要になるとした。
 更に、患者等による迷惑行為への対策、予防については、厚労省ホームページの各種情報や動画等が掲載されていることを紹介するとともに、日本医師会としても多くの関係者が利用しやすいよう情報や内容の充実、普及に努めるとした。また、今後は往診・訪問診療における防犯対策の1つとして、緊急時に警備会社に通報するサービスを会員に紹介する計画があることも明らかにした。

18 One Healthに向けての日本医師会の取り組みについて~日本獣医師会との連携強化~

250720a14.jpg 木下智弘代議員(和歌山県)からのOne Healthの考えに基づく新興感染症対策に関する連携・情報共有についての質問には、笹本洋一常任理事が、日本医師会と日本獣医師会は協定を締結して協力関係を築いていることを強調。関係省庁とも更なる連携を進めていくとした。
 災害時における感染媒体となり得る動物への取り組みに関しては、日本獣医師会が2018年にガイドラインを公表し、自治体と連携した避難所での動物管理や被災動物の飼育管理などについて取りまとめていることを紹介。
 日本医師会も2022年に日本環境感染学会との間で、学会の災害時感染制御支援チームと日本医師会災害医療チーム(JMAT)の相互支援や、避難所等での感染制御のための助言等を内容とする協定を締結したことを説明し、今後も災害時における感染症対策に取り組んでいく姿勢を示した。
 がん教育など学校教育における獣医師の参画についての提案には、「これまでも学校飼育動物などへの獣医師の関与はあったが、今後はがん教育にこだわることなく、学校での獣医師の活躍を期待したい」と述べた。

19 高齢化社会における「かかりつけ医機能」と救急医療について

250720a15.jpg 小牧斎代議員(宮崎県)からの高齢化社会における「かかりつけ医機能」と救急医療についての質問には、細川秀一常任理事が回答した。
 同常任理事は、地域の「かかりつけ医機能」がいまだに個々の医師の善意に支えられているとの指摘に対しては、「今後は地域を面として支えていく方向性が示されており、より多くの医療機関がかかりつけ医機能報告制度に手を挙げることが重要になる」と述べた。
 また、医療機関と介護施設等の連携体制強化のため、令和6年度の診療報酬・介護報酬の同時改定において新たな施設基準や加算が導入されるなど、高齢者施設からの救急搬送の減少が期待される方策が講じられたことを説明。こうした流れの中で、かかりつけ医機能の推進と、高齢者の救急医療体制の確保を図ることが必要になるとした。
 更に、新たな地域医療構想では、高齢者救急や医療と介護の連携に重点が置かれていると指摘。「各地での協議によって、それぞれの地域の実情に応じた高齢者の救急医療体制が構築できるよう、制度設計と財源の確保に努めていく」として、理解を求めた。

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