最近ひそかに始めたことがある。それは数学の本を読むことだ。高校の数学の知識でも読みこなせる数学の名著と聞いて、ずっと以前に買って積ん読していた吉田武著『オイラーの贈物』という本だ。
高校生の頃から数学が苦手で、試験で24点などという点をとったことがある。普通はそれで数学嫌いになるのだろうが、自分の場合、分かる者には分かるのに自分にはどうしても理解できないものに対する憧れのようなものを感じた。
還暦になって、サラリーマンだったら定年だななどと思っていたら、もう61歳を通過していた。気力が無くなる前に、自分が生きているこの世界というものをもっと深く知りたくなってきたのだ。
実際に読んでみるとこれがとても面白い。数学の本なのでなかなか読み進められないし、読みながら寝てしまうこともたびたびだ。しかし、ゆっくりと考えながら読んでいけば高校程度の数学の知識で十分読みこなせるように書かれている。
何より、著者の深い造詣(ぞうけい)から巧妙に配置された内容が、数学の美とでも言えるようなものを感じさせてくれる。数学とはこんなに創意に満ちて豊かなものだったのかと、まるで絵画を鑑賞しているような感動を受けるのだ。
雑多な日常を離れると、世界はこんなに合理的で、美しく、驚きに満ちていると感じさせてくれる。何かの役に立てるというのでもなく純粋に知ることの楽しみを感じさせてもらっている。