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平成28年(2016年)10月20日(木) / 日医ニュース

横倉会長 都道府県医師会に期待される役割の重要性を指摘し、一層の協力を求める

横倉会長 都道府県医師会に期待される役割の重要性を指摘し、一層の協力を求める

横倉会長 都道府県医師会に期待される役割の重要性を指摘し、一層の協力を求める

 平成28年度第1回都道府県医師会長協議会が9月20日、日医会館小講堂で開催された。当日は、10県医師会から「かかりつけ医以外を受診した場合の受診時定額負担」「高額医薬品対応の動向」など、医療を取り巻く直近の問題に関する質問並びに要望が出され、担当役員から回答を行った。

 今村定臣常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで、横倉義武会長は、公的医療保険制度の意義に触れた上で、「高額で市場規模の極めて大きな新薬の薬価収載が続いており、医療保険財政への影響から国民皆保険を破壊する危険性を目の当たりにしている」と危惧。高額薬剤については、適正使用を推進するとともに、これまで製薬メーカー主導であった薬価算定の仕組みについて、公的医療保険制度を堅持する視点から中医協の判断力を高め、抜本的な見直しに取り組んでいくとした。
 一方、団塊世代が75歳を迎える2025年に向けて、医療、介護を含む社会保障費の更なる増加が見込まれる中、その財源として検討されていた消費税は、10%への引き上げが平成31年10月まで延期されたことから、消費税の増収分やアベノミクスの果実を社会保障の充実、安定化に適正に活用するよう、引き続き、政府に強く求めていくとした。
 地域医療構想については、「将来の病床の必要量が注目されがちだが、重要なのは将来の姿を見据えつつ、医療機関の自主的な選択により、地域の病床機能が収れんされていくことである。決して医療費抑制のツールとして利用されることのないよう、今後とも注視していく」と述べた。
 また、制度開始が1年間延期されることとなった新たな専門医の仕組みづくりにおいては、地域医療に混乱を招かないよう慎重に対応していくとした。
 その上で、地域医療構想を含む医療計画の策定、かかりつけ医機能研修制度の実施、新たな専門医の仕組みにおける協議会や医師の地域・診療科偏在の解消に取り組む地域医療支援センターの設置など、都道府県医師会に期待される役割は、今後ますます重要になっていくとして、一層の協力を求めた。

協議

(1)認知症疾患医療センターの設置要件について

 認知症疾患医療センターの設置要件の緩和等を求める秋田県医師会からの質問には、鈴木邦彦常任理事が回答。
 同常任理事は、厚生労働省老健局認知症施策推進室より、医療資源が乏しい地域にも認知症疾患医療センターの設置を促進するため、「診療所型」について、平成29年度を目途に、名称変更も含め要件を緩和し、地域の病院にも設置を可能にしたいとの相談があったことを報告し、今後、厚労省と協議していくとした。
 面積割の提案については、地域の実情に応じて必要な認知症疾患医療センターの設置は可能であるとの回答だったことを紹介。「精神疾患の医療体制の構築に係る指針」に国の整備方針として掲げられた「認知症の鑑別診断を行える医療機関を含めて、少なくとも二次医療圏に1カ所以上、人口の多い二次医療圏では概ね65歳以上人口6万人に1カ所程度を確保すること」との目標は、あくまでも目安を示したものであるとした。
 また、平成27年の道路交通法改正によって認知症等に関わっている医師の負担が増えるとの懸念には、「地域によって専門医や認知症疾患医療センターが偏在していることから、今後は身近なかかりつけ医への診断書の作成依頼も増加することが見込まれる」との見方を示し、協力を求めた。
 診断書に記載する検査については、警察庁の「診断書記載ガイドライン」において、「認知機能検査・神経心理学的検査」及び「臨床検査」を原則として全て行うが、「臨床検査」のうち、頭部CT、MRI、SPECT、PET等の画像検査は、認知症の判断が可能な場合には行わなくてもよいとされていることを説明した。

(2)かかりつけ医以外を受診した場合の受診時定額負担について

 かかりつけ医以外を受診した場合の受診時定額負担に関する山口県医師会からの質問には、石川広己常任理事が、「経済・財政再生計画改革工程表」に、「かかりつけ医以外を受診した場合における定額負担を導入することについて、関係審議会等において検討し、2016年末までに結論を出し、2017年の通常国会に法案を提出する」と明記されたことを受け、日医では定例記者会見(8月3日開催)及び自民党の医療政策研究会役員会(8月25日開催)の場等で、横倉会長が受診時定額負担の導入について反対する旨を表明していることを改めて説明。
 また、改革工程表で、定額負担の導入が「かかりつけ医の普及の観点から」とされていることについては、①かかりつけ医普及の観点からであっても、社会保障負担においては患者から更なる一定の負担を求めるべきではない②受診時定額負担を検討する前に、高齢者の金融資産や所得の多寡に応じた負担を検討すべきであり、例えば高齢者の薬剤負担のあり方など、まずは社会保障の理念に基づき、応能負担の議論を先に行うべき―との考えを明らかにした。
 その上で、2014年の診療報酬改定での地域包括診療料・地域包括診療加算の新設や今年4月の改定での施設基準の要件緩和等、かかりつけ医普及のための制度的裏づけは始まったばかりであり、今、受診時定額負担が導入されれば、現在の流れに水を差すことにもなり、今後の医療提供に重大な影響を及ぼすと指摘。
 まずは、国民がかかりつけ医を持つよう普及に努めるべきであり、受診時定額負担が導入されることのないように、日医として、引き続き、政府に対し強く働き掛けていくとした。

(3)データヘルス計画実施事業について

 三重県医師会からのデータヘルス計画実施事業に関する問題点を問う質問には、羽鳥裕常任理事が回答した。
 現状、医師会及び医師の関与なく本事業が進められている点については、「日医は本事業の開始前から懸念し、対応してきた」とするとともに、生活習慣病の発症予防・重症化予防、特に保健事業として個々のハイリスク者へのアプローチに移行する際には、地域医師会、診療所や中小病院を中心とした地域のかかりつけ医との連携が最も重要であることを国の検討会でも強く主張し、合意がなされていると説明。
 その上で、同常任理事は、従来の地域の保健事業の取り組みに関して、地域医師会等の医療関係者が関与しないままに実施されてきたことも事実としてあるとし、「引き続き、地域医師会、かかりつけ医との連携による取り組みが各地域で進むよう、あらゆる機会を利用して、行政、医療保険者等への更なる働き掛けを行っていく」との考えを示した。
 また、個人情報保護の問題については、「医療に関わる情報は機微情報であり、単に法令やガイドライン等を順守していればよいという問題ではない。あらかじめ事業全体に係る丁寧な説明と同意の上で進めるべき」との考えを示すとともに、データヘルスの名の下、現在、地域で展開されているさまざまな保健事業については、行政、医師会、保険者、サービス提供者、学識経験者等が参加する第三者機関を設置し、事業評価・監視体制の構築に向けた具体的な検討を行うよう、厚労省などの関係当局等に精力的に働き掛けていくとした。

(4)日本医師会認定医療秘書資格取得者の医師事務作業補助体制加算算定のための院内研修時間の緩和について

 滋賀県医師会からは、医師事務作業補助体制加算の算定要件となっている基礎知識取得研修に関して、ドクターズクラークと差別化を図るためにも、日医認定医療秘書資格取得者が免除されている時間の更なる緩和を求める要望が出された。
 これに対して、萢敏常任理事は、①医師事務作業補助体制加算の算定要件を満たす目的の通信教育であるドクターズクラークと日医認定医療秘書の資格は性質の異なるものであるにもかかわらず、診療報酬上の要件としては同格の位置づけとなっていること②平成28年度の診療報酬改定では、加算対象病棟の拡大として療養病棟や精神病棟が追加されただけでなく、加算1をおのおの10点ずつ引き上げるとともに、診断書作成補助やカルテの代行入力については、実施場所を問わず業務時間に含める等の要件緩和が実施されたこと―などを説明。
 次回改定に向けては、日医認定医療秘書資格とドクターズクラークとの取得条件の厳しさの違いを主張しつつ、更なる要件の緩和に向けて働き掛けていくとともに、全国の医療機関が日医認定医療秘書を採用できるよう、養成力の強化にも努めていく考えを示し、理解を求めた。

(5)地域医療構想調整会議のあり方について

 鹿児島県医師会からは、地域医療構想策定後の地域医療構想調整会議に関して、官と民との競争の形態が浮き彫りとなり、建設的な話し合いをすることが困難になるのではないかとの懸念が示された。
 萢常任理事は、郡市区医師会長を議長とする地域医療構想調整会議が大きな役割を果たすとの認識の下、「地域医療構想策定ガイドライン」の中に、「調整会議は地域の医師会が主導しながら地域の実情に応じ柔軟に協議ができるもの」との記載を盛り込ませたことを説明。
 また、①「地域医療構想に関するワーキンググループ」の議論において、厚労省から「医療機関の役割分担」に関して、200床以上の公立病院を優先して検討するとの提案があった際には、官民格差につながることから強く反対し撤回させるとともに、地域の民間中小病院に十分配慮した内容になるよう主張したこと②公立病院への財政措置に関して、平成27年の総務省通知により、許可病床数に応じた額であったものが、稼働病床数に応じたものとなるよう是正されたこと―などに言及。今後も官民の在り方を阻害するような施策がないよう注視していくとするとともに、地域の実情に応じた将来の医療提供体制の構築が進むよう、引き続き、国へ働き掛けていくとした。

(6)「骨太の方針2016」について

 奈良県医師会からは、医師の地域偏在対策に関連して、「骨太の方針2016」に明記された、①医学部の地域枠入学者を今以上に増やすとともに、専門医は地域ごと、診療科ごとの定員枠を設ける②医療計画において、不足する地域・診療科等で確保すべき医師の目標値を設定する③診療所等の管理者要件として特定地域・診療科での診療への従事を義務づける―等に対する日医の見解を問う質問が出された。
 羽鳥常任理事は、①について、地域枠の定員増を前提としているわけではないこと、専門医に関しても、日本専門医機構にまずは任せるべきであると主張していることを説明。
 ②については、厚労省の医師需給分科会で決められることではなく、医療計画の見直しに関する検討会や社会保障審議会医療部会で慎重に議論することを求めているとした。
 ③については、昨年12月に示した日医・全国医学部長病院長会議との合同提言における提案の一つでもあるとした上で、「医師会が自律的に医師偏在に対する取り組みを行わなければ、政府がより厳しい規制的手法を取ってくることになりかねない」として、医師会として偏在対策に取り組む必要性を強調。
 管理者要件に関しては、「医療法の改正が必要になるが、具体的な医師不足地域・診療科の定義、対象となる医師の範囲などに関しては時間をかけて関係者が合意できる内容にしなければならない」との考えを示すとともに、改正法の施行までには十分な期間を設け、地域に混乱のないよう、慎重かつしっかりとした検討を行うよう、厚労省に強く主張していることを説明し、理解を求めた。

(7)定期予防接種の安全実施に向けた予防接種スケジュールの見直しについて

 現行の定期予防接種スケジュールが、現場が安全実施を行う上で間違いが生じにくいようなものとなるよう、弾力的な見直しを求める兵庫県医師会からの要望には、萢常任理事が回答した。
 同常任理事は、接種スケジュールの過密さ、煩雑さによる接種事故が指摘されていることは認識しているとした上で、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会予防接種基本方針部会(9月16日開催)においても、平成27年度の接種時の事故のうち、半数が「接種間隔の間違い」であったと報告されていることなどを紹介。
 今後議論していく上での課題としては、①接種時期を外れたことで、予防接種法の健康被害救済措置の対象とならなかった事案が起こった場合の対応②自治体ごと、あるいは同じ自治体でも担当者ごとに解釈、判断が異なること―などを挙げた。
 その上で、「この問題は、いかにヒューマンエラーを少なくしていくかという制度設計が重要になる」との考えを示し、これまで以上に厚労省に対して、あるいは国の審議会の場を通じて、現場の意見を伝えていきたいとした。
 更に、同常任理事は、この問題に関連して、MR(麻しん・風しん混合)ワクチンの問題についても言及。「基本的には、定期予防接種を最優先として対応してもらいたい」と要望した。

(8)新規個別指導について

 新規指定から、おおむね6カ月を経過した保険医療機関等に実施される新規個別指導の運用面での改善を求める福岡県医師会からの要望には、松本純一常任理事が回答した。
 同常任理事は、新規指定保険医療機関等に対する個別指導は、あくまでも初心者に対する教育的な指導であり、個別指導とは区別する必要があるとの考えの下に、厚労省と協議を行い、平成28年度からは診療所10名、病院20名の対象患者名の連絡について、「指導日の4日前」を「1週間前」に早めさせたことなどを説明。
 その上で、現状の問題点として、①返還金は原則求めるべきではないにもかかわらず、自主点検について、対象レセプト分のみの返還を求めることになっている②新規個別指導の結果、再指導となった場合、情報提供による個別指導と同様に、レセプト30件で実施されている―ことなどを挙げ、引き続き、これらの問題点の改善に向けて、運用の見直しを進めていく考えを示した。

(9)至近の中医協高額医薬品対応の動向について

 現在、中医協で進められている高額医薬品の見直しについての議論の動向に関する岡山県医師会の質問には、松本(純)常任理事が回答を行った。
 同常任理事は、「医療保険財政への影響を考えると、市場規模が極めて大きい高額な医薬品への対応が喫緊の課題」との認識を示した上で、「今後、具体的な施策については中医協で議論していくことになるが、薬剤費の大幅な抑制を可能とする効果的な核心部分の施策としては、厚労省の保険局と医薬・生活衛生局の連携の下で検討が進められている『新規作用機序医薬品の最適な使用を進めるためのガイドライン(最適使用推進GL)』が重要な施策の一つになると考えている」と説明。
 また、同常任理事は、①中医協では、薬価算定方式、『最適使用推進GL』、留意事項通知など、経済性の観点を含めた保険適用のあり方を製薬業界も含め、一体的にオープンな議論をすることで、薬剤費を大幅に抑制できるのではないかと主張したこと②製薬業界からは、『最適使用推進GL』の策定については、患者の新薬に対するアクセスを阻害・遅延することのないよう留意が必要であり、期中改定には反対する旨の意見が出されたこと―等を報告。
 「この問題については、引き続き、中医協で議論していくことになるので、ご支援をお願いしたい」と述べた。

(10)勤務医の医賠責保険料について

 日医医師賠償責任保険制度における勤務医の保険料減額の検討を求める広島県医師会の要望には、市川朝洋常任理事が、まず、「勤務医の医賠責保険料の見直しに関しては、現在、減額の方向で、改定時期、改定内容、保険料について、具体的に引受保険会社を含めて検討作業に入っている」と現状を説明。
 加えて、同常任理事は、日医医賠責保険制度について、「会員が紛争に巻き込まれた場合に、会員自身が矢面に立つことがないよう、都道府県医師会、日医が全面的にバックアップする体制や、厳密な医学的判断と適正な法律的判断に基づく審査体制は、他の民間保険ではまねできるものではない」と、本制度のメリットを強調した。
 その一方で、「学会等、他の団体における勤務医保険と比較した場合には、保険料に差があることも事実である」として、勤務医の日医加入促進を含めた組織強化という観点からも、より魅力的な制度にしていく必要があるとの認識を示した。
 また、今後については、「保険料だけでなく、補償内容・サポート体制といった総合的な観点から、全ての医師にとって魅力のある日医医賠責保険制度にしていきたい」と述べ、引き続きの支援を求めた。

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