慢性疾患管理に関する日米討論会が9月29日、日医、慢性疾患と闘うパートナーシップ(PFCD)、米国研究製薬工業協会(PhRMA)の共催により、日米の慢性疾患(特に糖尿病)に関わる主要なステークホルダーが集い、イノベーションによる、より良い治療、疾患マネジメントの課題やその解決に関する相互理解を図ることを目的として、都内で開催された。
ケビン・ウォーカーPFCDグローバル・エグゼクティヴ・ディレクターの司会で開会。冒頭あいさつした横倉義武会長は、「わが国では、糖尿病患者数の増加への対応が課題となっている」とした上で、日医が、関係団体と共に日本糖尿病対策推進会議を設立した他、日医、厚生労働省、日本糖尿病対策推進会議の三者において、「糖尿病性腎症重症化予防に係る連携協定」を締結するなど、糖尿病対策についてさまざまな活動を展開していることを紹介。
更に、昨年7月に発足した「日本健康会議」において採択された「健康なまち・職場づくり宣言2020」の中で、日本糖尿病対策推進会議等の活用を図り、かかりつけ医らと連携して生活習慣病の重症化予防に取り組むことが宣言されていることにも言及し、本討論会の成果に期待を寄せた。
プレゼンテーション
引き続き、5名の演者によるプレゼンテーションが行われた。
「日本において糖尿病の重症化がもたらす人的・経済的負担の実情」
東善博厚労省保険局国民健康保険課課長補佐は、人工透析に係る医療費が年間総額約1・4兆円(2009年)であること、また、透析導入患者の主要原疾患のうち糖尿病性腎症のみが大きく増えていること等、現状を説明した上で、保険者がレセプトと健診データを最大限に活用し、生活習慣病対策の推進や重症化予防に取り組むことで、健康寿命を延伸し、医療費の増加も抑制できるとの考えを示した。
更に、糖尿病性腎症重症化予防に向けた取り組みが進んでいる自治体の事例を紹介し、そうした取り組みを全国的に広げていくことが重要だとして、国レベルでも積極的に支援していくとした。
「慢性疾患と闘う:複雑な健康危機を解決する共通アプローチ」
ケビン・ウォーカー氏は、世界的に慢性の非感染性疾患が増えている現状に危機感を示した上で、米国では、国民のうち2910万人が糖尿病、8600万人が糖尿病予備群で、糖尿病と診断された人の医療費、職業や賃金の損失総額は2450億ドルにもなると説明した。
その一方で、幸いなことに大半の慢性疾患は予防が可能であると指摘。PFCDが、国際的非政府組織として、この問題に関して影響力を有する比類なきネットワークを構築し、多くの国で医療を改善するために活動していることを報告するとともに、医療費の増加を止めるには、病気の予防に焦点を当てることが重要だとした。
「糖尿病重症化予防における日医の取り組み」
羽鳥裕常任理事は、「糖尿病の発症・重症化予防のためには、糖尿病について国民や患者に正しく理解してもらい、受診を勧奨し、治療の中断を抑止することが重要である」と述べ、そのための啓発活動を積極的に行っていること等を紹介するとともに、糖尿病における医療連携の重要性を指摘した。
また、予防や診療には糖尿病専門医だけでなく、糖尿病非専門医の協力が不可欠であることから、かかりつけ医の効果的な糖尿病治療の推進を目的に、日本糖尿病対策推進会議より『糖尿病治療のエッセンス』を発行していることや、更に「日医かかりつけ医糖尿病DB(データベース)」を構築するため、糖尿病患者の症例登録を開始したこと等を報告した。
「日本の糖尿病治療とケアにおけるイノベーション・パートナーシップ」」
三津家正之日本製薬工業協会副会長は、「糖尿病の治療に関しては、薬剤の貢献度は大きく満足度も高いが、糖尿病合併症の治療に関しては、新薬等、多くの寄与が求められている」と述べ、新たなイノベーションを創出していかなくてはならない領域だとした。
また、そのためには、日本医療研究開発機構(AMED)やアカデミアと製薬業界の連携など、産学官の更なる連携強化が重要であると指摘。
更に、製薬業界内での連携に加え、医療機器業界やIT業界などの異業種連携が必要であり、業界の枠を超えた「Multi collaboration」型の連携も業界として推進していきたいとした。
「力を合わせ、日本の糖尿病やその他の慢性疾患と闘う」
スティーブン・J・ユーブルPhRMA理事長兼CEO(最高責任者)は、日本の医薬品開発への投資は、国民全体の健康度を引き上げているだけではなく、経済成長も牽引していると評価する一方で、高齢化による慢性疾患有病率の増加の現状や認知症に係る社会的費用の推計値等について解説し、危機感を示した。
また、患者のための協力体制として、米国での「2型糖尿病の実証プロジェクト」について説明し、「アドヒアランス(患者が治療方針の決定に積極的に参加し、その決定に沿って治療を受けること)がうまくいけば、HbA1cの数値を下げることにもつながることが分かった」と述べ、そういったアプローチも追及していく必要があるとした。
討論会
その後、5名の演者と門脇孝日本糖尿病学会理事長など関連団体・協会等からの参加者による討論会が行われた。
その中では、「早期に病気を見つけ、適切に治療につなげる仕組みが必要」「食品に塩分表示がないことが腎症発症に非常に関係している現状があるので、国に対策を求めたい」「国民の糖尿病に対する理解が低いので、もっとアナウンスが必要」「患者の治療だけでなく、患者教育を重視する必要がある」「食事療法と同様に運動療法も正しく評価する仕組みが必要」「食事・運動療法が十分にできなくても、血糖値が下がり合併症が起こらないような薬を開発して欲しい」「糖尿病にかかるコストを考え、国はもっと糖尿病の研究に資金を使うべき」「患者に使いやすい薬の開発が必要」「何が患者の障壁となっているのか理解できるようにパートナーシップを組む必要がある」などの意見が出された。
最後に、ウォーカー氏が、「医療従事者、製薬業界、患者団体等のグループとパートナーシップを組み、より多くの人と協力して、予防に焦点を当てた取り組みを推進していくことが重要だと感じた」と結んだ。