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平成28年(2016年)12月5日(月) / 日医ニュース

「福岡宣言」を満場一致で承認

「福岡宣言」を満場一致で承認

「福岡宣言」を満場一致で承認

 第2回世界獣医師会―世界医師会"One Health"に関する国際会議〔日医、世界獣医師会(WVA)、世界医師会(WMA)、日本獣医師会主催〕が11月10、11の両日、福岡県北九州市内で開催された。
 本国際会議では2日間にわたり、約30の講演等が行われ、"One Health"の概念に基づき行動し、実践する段階に進む決意を示した「福岡宣言」を満場一致で承認した。

 本国際会議は、2012年10月、"Global Health"の向上のため"One Health"の理念の下に医師と獣医師が協力することを目的とした「覚書」の締結を受け、昨年5月スペインのマドリードで開催された第1回会議に続くもので、そこでの横倉義武会長と藏内勇夫日本獣医師会長による講演を通じての両団体の連携と協力関係が高く評価され、日本で開催される運びとなったものである。
 参加者は、横倉会長、松原謙二副会長、道永麻里・釜敏両常任理事、畔柳達雄日医参与、阿部計大・三島千明日本医師会JDNの他、九州ブロック医師会120名、神奈川・和歌山・鳥取各県医師会、WMA、アジア大洋州医師会連合(CMAAO)関係者を含む31カ国639名であった。

第1日

人と動物の健康に関する理解を深める機会となることを期待―秋篠宮殿下

161205e-2.jpg 開会式は、秋篠宮同妃両殿下ご臨席の下、11月10日に執り行われた。
 道永麻里常任理事、ジィーブ・ノガWVA政策担当の司会で開会。初めに、主催4団体の代表によるあいさつが行われた。
 横倉会長は、「これまでも、医師と獣医師はそれぞれの立場から着実な取り組みを進めてきたが、医師と獣医師とが"One Health"の理念の下に知を結集することにより、更なる感染症対策の推進、ひいては医学、獣医学の進歩につなげることができる」と述べるとともに、「当国際会議は医療の国際貢献のみならず、地域の活性化を図る上でも大いに意義のあることと受け止めている」とした。
 また、秋篠宮殿下からは、「世界規模での感染症の蔓延(まんえん)が懸念される中、複数の分野にまたがる研究者が一堂に会し、感染症対策について議論が交わされることは大変意義深い。多くの人々が人と動物の健康に対して関心を寄せ、理解を深める機会となることを期待する」旨のお言葉を賜った。

医療現場で分析機器が果たす役割を強調―田中耕一氏

161205e-3.jpg 引き続き、2002年ノベール化学賞受賞者、株式会社島津製作所シニアフェロー、田中耕一記念質量分析研究所長の田中耕一氏による「分析機器―感染症対策への更なる貢献を目指して―」と題した基調講演が行われた。
 田中氏は、感染症予防や適切な治療を行うため、分析機器が果たす役割は、最近、年を追うごとに増えているとして、①既に感染症対策に活用されている分析機器②次世代の医療・創薬を目指した技術③将来の医学検査及び"One Health"に更に貢献するためのアイデア―の3項目を挙げて講演した。
 微生物同定用の質量分析装置(MALDI-MS)は、医療現場で早期診断補助及び適切な投薬判断に寄与していること、分析機器には、既知の物質の確認だけでなく、未知の化合物や現象を見つけられる能力もあることを紹介。
 そして、田中氏は、「"One Health"とは、多分野の協力により、人・動物・地球環境の健康を最大化することであるが、本会議は、これら多分野のつながりやコミュニケーションを強めることを目的としている。そういった意味においても、本会議が企画され、開催されたことは、それだけでも画期的なことである」と強調するとともに、「異分野・多分野が協力することで従来にないアイデアが生まれ、提案されることは間違いなく、それに対し、分析計測の研究開発に携わる者として、更に貢献することができればと思う」と述べた。
 午後の部では、「人と動物の共通感染症」と題して2つのセッションが行われた。
161205e-4.jpg セッション1では、倉根一郎国立感染症研究所長が、エボラウイルス、SARS、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)等、野生動物による人獣共通ウイルス感染症が近年多発しており、その要因としては、「人や動物の移動の増加に伴う感染症の世界規模での拡大」「サーベイランスシステムの発達と検査技術の進展」が考えられると指摘。
 また、不顕性感染や発病しない人への対策が喫緊の課題となっており、①原因となる病原体の早急な特定や継続的なサーベイランス②病原体の自然界における感染環の解明、防御及び治療法の開発―等が求められるとした他、「このような緊急対応の基盤として、医学と獣医学間の情報交換と研究協力体制の確立・維持が最も重要になる」と述べた。
161205e-5.jpg 高橋徹山口県立総合医療センター血液内科診療部長は、山口県で2012年に日本で初めてのSFTS患者に対応した際の医学と獣医学の協力体制での取り組みを紹介。「当時、医療現場でSFTSがほとんど知られていない中、日本初のSFTS患者の診断に至ったのは、山口大学共同獣医学部、東京農工大学、国立感染症研究所の協力があったからである」とした上で、「日本のSFTSへの取り組みは、まさに"人医学"と"獣医学"が一体となった"One Health"の概念を実践するものであり、今後、我々が経験する新興感染症や人獣共通感染症に対応していくためのモデルケースになるのではないか」とした。
 続いて、「地域における医師と獣医師の協力(福岡県の事例)」では、草場治雄福岡県獣医師会長が、地方会として福岡県獣医師会と福岡県医師会が初めて学術協定を締結(2013年12月)したことを紹介。「その後に、55の日本獣医師会の地方会と各地域の医師会とが学術協定を結んだことで、日本において共通感染症に対する基礎となる素地ができ、安全で安心な社会を構築することが可能となった」と述べた。
161205e-6.jpg 稲光毅福岡県医師会理事は、福岡県獣医師会、福岡県医師会の共同事業として行った「共通感染症発生状況等調査」の結果を基に、身近なペットから人への感染は、これからも日常的に起こり得るとして、乳幼児や高齢者、基礎疾患があり免疫機能が低下している人、妊婦等は、ペットの健康に対してより注意する必要があると指摘。「今後、人とペットが健康に生活を共にするためにも、医療と獣医療の連携を深め、情報共有を進めていきたい」とした。
 国際協力機構(JICA)のセッションでは、「アフリカにおけるウイルス性人獣共通感染症の調査研究」(ザンビア)、「オオコウモリを対象とした生態学調査と狂犬病関連感染症及びその他のウイルス感染症への関与」(インドネシア)、「薬剤耐性細菌発生機構の解明と対策モデルの開発」(ベトナム)の紹介などが行われた。

第2日

 2日目の厚労省セッション「薬剤耐性(AMR)対策」では、AMRは、公衆衛生上、新たに出現した世界・地域・国レベルでの脅威であり、そのリスクを制限するためには多分野アプローチが必要となること、国連食糧農業機関では、グローバルな食の安全と公衆衛生を保証するためにAMR対策を強化していること、獣医療における抗菌薬の慎重使用の重要性と国内外の動向等について講演が行われた。
 また、国立国際医療研究センター病院の大曲貴夫国際感染症センター長からは、日本におけるAMR対策推進の課題として、①外来での抗菌薬使用に対する取り組みの強化②国民への啓発③医師会を含めた地域でのネットワーク構築―等が挙げられた。

地球環境との関わりを意識すべき―毛利衛氏

161205e-7.jpg 県民公開講座(福岡セッション)では、毛利衛日本未来館館長(宇宙飛行士)による「宇宙から見た地球生命のつながり」と題した講演が行われた。
 2度にわたる宇宙での経験を基に毛利氏は、地球環境を守ることの重要性を強調。「人類は特別な生き物ではなく、決して自然をコントロールすることはできない」ということを改めて認識すべきと訴えた。
 更に、今後、「地球環境との関わりを個々人が意識すること」が必要となり、「未来智」(生き延びていくための智慧)を獲得できた社会がより生きやすい社会となると指摘。そういった意味で、「思いやり」という文化を持つ日本は進んだ国であると言え、リーダーとして世界を引っ張っていく使命があるとした。
 その後は、「"One Health"に関するその他の話題」「将来における"One Health"の概念の考察」をテーマとした2つのセッション、講演「One Healthアプローチの実用的運用化」に続いて、ジョンソン・チャンWVA次期会長が今回の会議を総括。「本会議では2日間にわたり、約30の講演と討議が行われたが、我々は多くの成果を共有することができた。今回の成果は必ずや次回の会議にもつながることだろう」と会議の成果を強調した。
161205e-8.jpg 引き続き、横倉会長、藏内日本獣医師会長、ドォーWMA元会長、チャンWVA次期会長が登壇。藏内日本獣医師会長が、「今回の会議の成果を踏まえ、"One Health"の概念を検証し認識する段階から"One Health"の概念に基づき行動し、実践する段階に進むことを決意する」として、別掲の「福岡宣言(案)」を読み上げ、満場の拍手をもって、宣言案は承認された。

福岡宣言
 人類は、地球上の全ての生命に配慮し、地球環境を健全に維持する責任を担っている。医師と獣医師は、科学的知識を持ち、専門的訓練を受け、法に定められた義務を遂行するとともに、人と動物の健康と環境の維持に係る幅広い活動分野において、業務に携わる機会と責任を有している。
 2012年10月、世界獣医師会と世界医師会は、"Global Health"の向上のため、また、人と動物の共通感染症への対応、責任ある抗菌薬の使用、教育、臨床及び公衆衛生に係る協力体制を強化するため、両者が連携し、一体となって取り組むことを合意し、覚書を取り交わした。
 2013年11月、日本医師会と日本獣医師会は、健康で安全な社会を構築するため、医療及び獣医療の発展に関する学術情報を共有し、連携・共同することを同意し、協定書を取り交わした。更に、日本医師会と日本獣医師会は、2011年3月に発生した東日本大震災における教訓を踏まえ、感染症、自然災害などの危機に対し備えることはもちろん、医師と獣医師との連携の強化がいかに大切であるかという点についても意見の一致をみた。この協定書締結は、日本全国の地域医師会と地方獣医師会においても達成された。
 2016年11月、世界獣医師会、世界医師会、日本医師会、日本獣医師会の4者は、2015年、スペインのマドリードで開催された第1回"One Health"に関する国際会議に続いて、第2回目の国際会議を日本で開催した。
 医師と獣医師は、世界各地からこの福岡の地に集い、人と動物の共通感染症、薬剤耐性対策等を含む"One Health"に関する重要な課題について情報交換と有効な対策の検討を行い、評価すべき成果を収めた。
 我々は、本会議の成果を踏まえ、"One Health"の概念を検証し認識する段階から"One Health"の概念に基づき行動し、実践する段階に進むことを決意し、以下のとおり宣言する。

  1. 医師と獣医師は、人と動物の共通感染症予防のための情報交換を促進し、協力関係を強化するとともに、その研究体制の整備に向け、一層の連携・協力を図る。
  2. 医師と獣医師は、人と動物の医療において重要な抗菌薬の責任ある使用のため、協力関係を強化する。
  3. 医師と獣医師は、"One Health"の概念の理解と実践を含む医学教育及び獣医学教育の改善・整備を図る活動を支援する。
  4. 医師と獣医師は、健康で安全な社会の構築に係る全ての課題解決のために両者の交流を促進し、協力関係を強化する。
以上
2016年11月11日161205e-9.jpg
キーワード:"One Health"とは
 人の健康、動物の健康、環境の保全のためには、三者の全てを欠かすことができないという認識に立ち、それぞれの関係者が"One for All, All for One"の考え方に基づいて緊密な協力関係を構築し、活動していこうとする理念のこと。

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