平成28年度日本医師会医療情報システム協議会が2月11、12の両日、550名の参加者の下、「日医IT化宣言2016~さらなる医療IT基盤をつくる~」をメインテーマとして日医会館で開催され、熱心な議論が行われた。
石川広己常任理事の総合司会で開会。冒頭、本協議会の前身である全国医療情報システム連絡協議会(全医協)の代表幹事を努めた故安田恒人宮城県医師会顧問を追悼し、参加者全員で黙禱(もくとう)を捧げた。
次いで、あいさつを行った横倉義武会長(松原謙二副会長代読)は、「日医は、『日医IT化宣言2016』を基に、医療等IDや保健医療福祉分野公開鍵基盤(HPKI)利用の普及拡大に向けて、全ての医療機関等が接続できる公的な全国ネットワークとして『医療等分野専用ネットワーク構想』を提唱している。従来以上に力を入れて、患者の医療情報を厳格なセキュリティで守りつつ、医療分野のIT化に取り組んでいきたい」と述べた。
続いてあいさつした運営委員長の蒔本恭長崎県医師会長は、「現在、地域包括ケアシステムの構築が進められているが、『かかりつけ医』を中心とした多職種連携を行うためには、ICTを用いた地域連携システムは欠かすことができないものになっている」と述べた。
1日目に行われた「Ⅰ.日医IT戦略セッション」では、日医のICT戦略全般について、石川常任理事が報告。次に、上野智明日本医師会ORCA管理機構(株)社長が、ORCA事業と「医療情報匿名加工・提供機関(仮称)」について、同管理機構の西川好信開発部長からは、昨年4月に検査・画像情報提供加算及び電子的診療情報評価料が新設されたことを受けて開発された、セキュアなネットワークがなくても加算の算定が可能となる「MEDPost」について、矢野一博日医電子認証センターシステム開発研究部門長からは、「医師資格証」の発行状況と更なる医師資格証普及の施策について、それぞれ報告が行われた。
日医認証局・日レセを利用した先進的事例等を報告
次に、「Ⅱ.事例報告セッション」では、日医認証局・日レセを利用した事例7題と地域での取り組み事例7題の報告があった。
日医認証局・日レセを利用した事例では、矢田公裕別府市医師会長と田能村祐一同市医師会ICT・地域医療連携室長が、「ゆけむり医療ネット」利用時のID・パスワード等に関する煩雑さを「コンテキスト・スイッチ」という新しい技術と「医師資格証」を用いて解消した事例を報告。牟田幹久長崎県医師会常任理事は、「あじさいネット」における検査・画像情報提供加算の問題点とその原因を考察した。
山中寛紀碧南市医師会顧問は、日医の「MEDPost」を利用することになった経緯と現状を報告。福田俊郎佐世保市医師会顧問は、自院で開発した日医標準レセプトソフト(ORCA)連携自動健診システム「健診オートボーイ」を進化させた「健診オートボーイⅡ」と「給管鳥」を連携した介護システムを発表した。
児玉和夫島根県医師会常任理事は、「まめネット」における日医認証局活用事例を、久保賢倫坂出市医師会広報・情報担当理事は、ORCAを利用して、点眼薬をテレビ画面に大きく表示するシステムをそれぞれ報告した。
また、松﨑信夫茨城県医師会副会長は、「いばらき安心ネット(iSN)」の運用実績とORCAユーザである自身が実際にiSNをどう利活用しているかを説明した。
地域での取り組み事例では、三原一郎鶴岡地区医師会理事が、16年間運用している「Net4U」のサブシステムである患者・家族参加型システム「Note4U」の運用と課題について、幸原晴彦独立行政法人国立病院機構大阪南医療センター医長が、ICT化した糖尿病連携手帳による地域包括ケア体制構築と広域運用への課題について、それぞれ考察した。
続いて、久保田泰弘浪速区医師会副会長は、「Aケアカード(多職種連携カード)システム」の構築経緯や、運用状況を報告。荒川迪生医療法人明輪会荒川医院副理事長は、長年実践している「外来診療情報の年刊サマリー」について発表した。
大浜仁也岡崎市医師会システム担当理事は、医師会プライベートネットワークの稼動状況と健診画像の公開システムについて、舛友一洋臼杵市医師会医療福祉統合センター長は、1万枚以上の「石仏カード(フェリカカード)」を発行している「うすき石仏ねっと」について、若松建一名古屋市医師会理事は、「なごや地域におけるITを使った医療連携ネットワーク」の活用事例について、それぞれ報告した。
ICTありきの政府の視点との乖離(かいり)を埋めていく―石川常任理事
2日目には、シンポジウム「医療等分野専用ネットワーク構想について」が行われた。
矢野日医電子認証センターシステム開発研究部門長は、「医療等分野専用ネットワーク」の概要を、大山永昭東京工業大学科学技術創成研究院社会情報流通基盤研究センター教授は、「IXと公的個人認証サービス(JPKI)を利用した総務省の実証実験」をそれぞれ紹介した。
山本隆一医療情報システム開発センター理事長は、イギリスの失敗例を報告するとともに、「わが国の医療等分野専用ネットワークは災害にも強いネットワークとすべきである」とした。
佐々木裕介厚生労働省政策統括官付情報化担当参事官は、厚労省で進めているICT政策の現状や今後の方向性、「医療等分野専用ネットワーク」の検討状況について紹介し、「これからも日医と歩調を合わせてICT化を進めていきたい」と述べた。
上村昌博内閣官房情報通信技術総合戦略室社会保障改革担当室内閣参事官は、政府のIT戦略の概略、特に医療等分野におけるITの取り組みについて紹介した。
また、フロアからは自見はなこ参議院議員と吉田宏平総務省情報流通行政局情報流通高度化推進室長より発言があり、技術面からの提案や「医療等分野専用ネットワーク」構築に向けて助力していきたい旨のコメントがあった。
シンポジストとして登壇した石川常任理事は、「厚労省はマイナンバーカードに搭載されたICチップの公的個人認証を利用して『オンライン資格確認』を行うとしているが、政府が目指すところと現実とでは大きな乖離がある。我々は医療を行う立場として、現場での連携がうまく機能するように適切にICTを活用しながら地域包括ケアシステムを構築していくことで、ICTありきの政府の視点との乖離を埋めていきたい」と述べた。
閉会式では、次回担当県の長瀬清北海道医師会長が、次回の協議会に向けた抱負を述べた後、運営委員会委員の牟田長崎県医常任理事が、2日間の協議会を総括し、閉会となった。
なお、本協議会では、「医師資格証」を使った出欠管理を行い、158名の利用があった。