平成29年(2017年)4月5日(水) / 日医ニュース
警察活動に協力する医師の全国組織化に向けて活発に協議
平成28年度都道府県医師会「警察活動に協力する医師の部会(仮称)」連絡協議会・学術大会
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平成28年度都道府県医師会「警察活動に協力する医師の部会(仮称)」連絡協議会・学術大会が3月12日、日医会館で開催された。
連絡協議会は、担当の松本純一常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで横倉義武会長(今村聡副会長代読)は、警察活動に協力する業務のうち、次に起こり得る大災害に際しての検案体制の構築を最優先に対処すべき重点課題と位置づけ、検討を行っていることなどを報告。「本日は、我々に残された時間はそう多くはないとの認識の下に、建設的な議論をお願いしたい」と述べた。
大規模災害時の検案体制の構築などを議論
報告では、まず、中澤貴生内閣府死因究明等施策推進室参事官が、死因究明等推進協議会の設置状況について、平成29年3月末までに24都道府県に設置される予定であることを報告。協議会の中では、「読影のできる力量のある医師や検案医のなり手が不足している」「撮影・読影の費用負担が不明確」「特定の医師に警察からの依頼が集中している」などの課題が指摘されていることを紹介した。
また、監察医による死因究明については、①医師の判断で、解剖・検査の実施を決定できる②検案・解剖・検査の結果を一元的に集約・活用できる③遺族対応の窓口があり、詳しい結果説明を行うことができる④個人の尊厳、公衆衛生の他、犯罪死の見逃し防止に貢献―などの優れた点を挙げ、その意義を強調した。
結びとして、中澤参事官は、「どのような支援が必要なのか、国が検討できるようにするためにも、ぜひ、協議会を設置し、地方の課題を国に示して欲しい」と呼び掛けた。
中西章警察庁刑事局捜査第一課検視指導室長は、死因・身元調査法の規定に基づき行われている警察における死体取り扱いの流れを説明した他、①日本の死亡者が増えている中で、警察の死体取り扱い件数は微減となっている②死因・身元調査法第5条に基づく検査、特に、薬・毒物検査が増加傾向にある―ことなどを報告。「法が施行されてから3年余りが経過するが、その運用の中でさまざまな問題点も指摘されており、必要な対応を行っていきたい」とした。
小林博警察活動等への協力業務検討委員会委員長(岐阜県医師会長)は、本年2月に都道府県医師会を対象として実施した「『警察活動に協力する医師の部会(仮称)』の設置状況等に関するアンケート調査」の結果(速報値)について説明。「今回の調査でも、検査費用など全国的に統一されていないことが明らかとなり、全国組織化にはかなりの時間を要すると思われるが、引き続きの協力をお願いしたい」と述べた。
また、補足説明を行った松本(純)常任理事は、集計結果がまとまり次第、都道府県医師会宛てに送付する意向を示した他、現在仮称となっている部会の名称については、「『警察協力医会』を軸に執行部内で検討し、早期に決定したい」とするとともに、「研修会の開催に前向きな医師会に対しては、個別に相談するので協力願いたい」とした。
引き続き、岩手・長崎両県医師会から事前に寄せられた要望・質問に対して、協議を行った。
大規模災害時の多数死体検案について、県レベルを超えた広域の協定、全国規模での机上訓練を行うべきとの岩手県医師会からの提案に対して、松本(純)常任理事は、警察活動等への協力業務検討委員会では、大規模災害時の多数死体検案体制の構築について最優先で検討しており、各ブロックの代表の委員の他、内閣府、厚生労働省、警察庁、海上保安庁にもオブザーバーとして参加してもらっていることを説明。平成29年度に向けて、具体的な計画を立案していきたいとした。
一方、長崎県医師会からのJMATに検死チームを同行させることに対する見解を求める質問には、松本(純)常任理事が、現時点においては、両者は別々に組織することが適当であるとの考えを明示。「医師会の組織として派遣されることが大事であると考えており、今後は、検案チームがJMATとして活動した方が活動しやすいかどうかも含めて、検討していきたい」と述べた。
学術大会―向井聖マ医大教授による特別講演
午後からは学術大会が行われた。
冒頭のあいさつで、横倉会長〔松本(純)常任理事代読〕は、「本学術大会を死因究明に関する幅広い角度からの知見に触れる良い機会とし、参加者相互の活発な議論と研鑽(けんさん)の場にして頂きたい」と述べ、その成果に期待を寄せた。
続いて、向井敏二聖マリアンナ医科大学法医学教室教授が、「我が国の死因究明制度の現状と課題―安心・安全な社会をめざす我々専門医の役割」と題して特別講演を行った。
向井教授は、死因究明を体系的に規定した「死因・身元調査法」「死因究明等推進法」について、警察に公衆衛生の向上を義務づけたこと等を評価する一方、「費用が地方自治体に委ねられたため、その取り組みに地域格差が見られる」「今回の改革の最重要課題であった、法医学に関する知見を活用して死因究明を行う専門的な機関の全国的な整備が行われていない」など、運用面での懸念があるとした。
また、医師法21条の異状死体届出義務の解釈として広尾病院事件の最高裁判決を受けて提唱されるようになった「外表異状説」(医師に警察への届出義務が生じるのは、死体の外表を検査して異状があると認めた時のみとする説)については、外表に異状のない「誤薬」「術後出血」「誤診」等は届出の対象から外されるなどの危険性があると指摘。「単に医療界への警察介入を排除するという目先の目的のみで医師法21条の『異状死』の定義を曲解すべきではない」と述べた。
その上で、早急に検討すべき事項として、①医師法21条の「異状死」の定義について、医療関連死とは別角度で省庁横断的な議論を行う②『死亡診断書記入マニュアル(厚労省編)』に「異状死」の定義を改めて明記する③専門医による死亡診断書のスクリーニング制度を構築する④異状死の判断に関する電話相談窓口を全国的に整備する⑤死亡診断書(死体検案書)に「検視済印」を新設し、印がない診断書を役所は受理しないようにする⑥消防隊員の警察への通報を法制度化する⑦専門医同士の連携強化―等を挙げ、早期の実現を求めた。
その後は、一般公募で選ばれた「顔面うっ血とツキノワグマ徴候の違い」「最近5年間における当院で実施した外因死のAiに関する検討」「縦隔気腫で死亡した男子高校生の一例」「死因診断に際し解剖の必要性を改めて実感した一例」「地域包括ケアシステムの中の警察医の役割~東京都多摩地域の警察医の一考察~」の5題の講演がそれぞれ行われ、大会は終了となった。